幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ラブストーリー

なりあがる! 4

   

 馬駒は初めての場所で眠りにつく。疲労感がおもいのほか感じていた。が、敷地内が広すぎるせいか、都内だというのに静寂が気になるほど、心に恐怖心を与える。おのれの心音すらうるさく感じる。
 自分のこれからの行く末を考えても、いつの間にか深く眠ってしまった。そして、翌朝、激しく強烈な音で目覚める。ドアを叩く者がいる。それが、新たな執事の登場。
 神永 栄光(かみなが えいこう20歳)の登場だ。一年前に執事として勤めている先輩だ。だが、こいつの働きっぷりは自ら公言する。
 そのクズっぷりな発言を連発することで、まるで社会人として拒否しているようにもとれる。あの手この手で仕事をサボる。そういう人間を、人は神と呼ぶものもまたいる。モチーフは十字架。その意味はまだわからないが、なにかを暗示しているのはまちがいないだろう。

 馬駒の天敵になりかねない者がそばにいるのは嫌気がさす。しかし、それはまた一人の人間を知ることになる。

 

 食卓に入る扉の前では、メイドやほかの執事が忙しげに行き来している。どうやらテーブルのセッティング、食器を並べ、盛り付けなどに躍起になっているようだ。
「あと15分ですからね」
 馬駒より年配の女性がそういうと、ほかの若いメイド服を着ている女性たちがその声に反応して、はい、と低く静かに答えた。その女性たちの服装が目を引いた。なぜか、統一されていないのが気になる。
「なんだ、それぞれがメイドの服装がちがうね」馬駒は真白に尋ねてみた。
「ええ、ここはヴィクトリアンメイド服が主流よ」
 ヴィクトリアンメイド服。ロングスカートで、シンプルにフリルのついた白いエプロンをセットにしている。
 ホワイトブリムと呼ばれる頭飾り。レースのカチューシャを採用しているようだ。
 真白は続ける。「さっきの年配の女性、あの人が私たちメイドのリーダー的存在。片桐 香衣(かたぎり こうい38歳)。口うるさいひと。でも、ここでは、メイドと家政婦としてのラインがある。それが年齢。30歳からは家政婦として呼ばれるの。もっともメイドしかもここで家政婦は2、3人いればいいから、30歳になる前には結婚して辞めさせられる。つまりが若い女だけを雇っている傾向がここではあるの」
「マジか。女好きなのか、ご主人様は」
 馬駒は、女ったらし、といいたいところを言葉を選んだ。
「どうかしら、よくはわからない。でも同年代の若い女子を、お嬢様に友だち感覚で接してもらうようにはいわれている。やっぱり住む世界がちがうせいで忌み嫌われているのも、よくあることだから。味方が必要なのよ」
「なるほど、ありそうな話しだ」
「私としては、フレンチメイドの格好がいいんだけど…」
 馬駒はそれがなんのことだがわからない。
「黒いワンピースに白いエプロンを着ているところはおなじ。フランス風の人形みたいなあれよ。ちょっと下品な性的に興奮しちゃうファッション。胸元が開いてて、袖はなくて、スカート丈はマイクロミニ。ちょっとエッチな感じかな。秋葉原のメイドコスプレをしている女の子がイメージ。わかるでしょ。とうぜん、あなたもそういうの好きでしょ?」
「バカいえ。おれはこちらのメイドさんたちのファッションのほうがいい。落ち着いている」
 馬駒は、大人な対応で誘惑を交わす。

 片桐家政婦長が遠くから真白の存在に気づいた。
「さぼってないで手伝いなさい」
「はい、すみません」
 おとなしく言うことをきく真白。その態度は一礼をし、両手を下腹部あたりに重ねていた。おそらくそれがメイドとしてあるべき態度なのだろう。
「さっきまでの態度とは大違いだな、真白 結め」
 馬駒はぼやいた。
「あんたは新人の執事ね。今日からだってね」
 すでに情報は広がっていたようだ。
「はい。マゴマ…」
「いいかしら」
 名前を言い終えるまえに、家政婦長は口を挟む。
「いそがしいの。状況判断力を身につけなさい」
「は、はい」
 馬駒をにらみつける年配の女性は自分より身長が低いというのに、迫力は、明らかに二メートルを超えているほど大きかった。

 馬駒は城谷に指示されていたとおり、食卓のなかにはいり隅でおとなしく作業の流れや各々の分担役割があるのを見て覚えようとしていた。
「忙しいはずなのに、どこか厳かで、凛としている。そうか、動きにムダなない。絨毯だけど足音が一切していない。布切れの音もしていない。動くときの空を切る音もない。だから、いまこの食卓の空間は必要最小限の音しかないから、忙しいはずなのに、忙しさを感じさせない。これが一流の執事やメイドのマナーだな」
 そして、人の動きが緩やかになった。角やテーブル横に執事やメイドが佇みはじめた。どうやら夕食の準備が終わったようだな。これから冠木家、晩餐が開かれる。家族だけの晩餐。それがどんなものかはじめて見る馬駒だ。大金持ちの夕食なんてめったに生でみれるものではない。映画やドラマと違うってとこを見させてもらおう。
「さて、ショーのはじまりか」
 城谷足音を立てずに近づいていた。
「おい、なにぶつぶついっている」
「いえ、すいません。すごいなと思って」
 動揺を見破られないように息をのむ。
「そうだな。はじめてのときはみんな同じように思う」
 城谷は眼球だけを室内全体を見回した。キョロキョロと首を、顔を動かすのは見苦しいからだ。
「このままここに立っていろ。そして、最後の方で挨拶をするからな。いいな」
「え、ええ、え? このタイミングで?」
「そうだ」
 なにもこのタイミングでの紹介は緊張する。緊迫しているのは、食事のときだ。なにを考えているのか。
「緊張するな。そうだな…、ならドアのところに立つか。食事を終えたあと、すれ違い時、ご挨拶をする。ひとりひとりになってしまうけどいいか?」
 城谷の提案にのった。全員の前で声を張るのは苦手だ。それも食べることに意識がむいているというのに、新人の執事がはいったからといっても興味をもたないだろう。さして人材について雇い主が管理するわけではない。今回はお嬢様が雇い主だ。非礼のないようしなければならない。さらに加えていえば旦那様、奥様の一声で解雇になるかもしれない。だいたい、かなめお嬢様は未来の夫候補のことを説明しているのだろうか。そうでないなら評価が下がる要素をみつけて排除するために全力を尽くしかねないのではないか。メイドの真白は知らなかったから、ほかの従業員も知らないだろう。城谷だって尋ねてはいないが、馬駒とかなめの関係性、心情を知り得ていない様子だった。ただ、スカウトしたことだけを把握している。その場にいたのだから。とうぜんだ。
 馬駒の思考を狂わせ、胸を苦しめるのは、やはり女の存在があってのことだと、改めて感じはじめていた。
「はい。とりあえずドアのほうに立ちます。ひとりずつにご挨拶したほうがいいでしょう」
 城谷はわかった、といった。そしたらドアのほうへ指さし、そこに立っていろ、と示した。

 

-ラブストーリー


コメントを残す

おすすめ作品

アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編 第34話「それでも――――」

   2017/11/20

探偵の眼・御影解宗の推理 【嘆きの双子】15

   2017/11/20

ロボット育児日記39

   2017/11/17

忠実な部下たち

   2017/11/17

モモヨ文具店 開店中<36> ~帰り行く者~

   2017/11/16