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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

8月のエンドロール 16

   

高校生三人が無力さを噛みしめている頃、捜査本部を解散させられたタイゾウの父・家光は池田と連絡を取り、捜査本部復活の根回しをする。だが、家光の健闘は空しい結果に終わる。
一方、高校生たちは古雅の邸宅で血塗れで逃げるマリを見つける。驚く三人の前で死んだ古雅が運び出され――
『叫び』配信

 

叫び

 力ない高校生三人組が集うファミレスは一角だけ葬式のような有り様だった。
「池田さんは……古雅と娘との記事から、ずっと古雅を追っていたらしい。ネットに行方不明って流れたのは、しばらく身を隠すためだったって。それで……マリと母親の姫子にぶちあたったんだってさ。で、俺もちょうど調べて、池田さんに送ったメールを見て、池田さんは比野県と東京を往復して調べ回った。それで、分かったのは姫子は……区議会議員に立候補するってことだった。古雅に後押ししてもらうためにマリを使ったって。古雅は比野では力があるけど、東京ではそんなに幅を利かせられないから、なんか、それがちょうどいいとかで……俺が調べたなかに古雅の親戚が不正融資、十二億ってのがあったんだけど、あれは……もっと膨大な額で……数千億だったそうだ。その金を使って、姫子を区議会選挙に送り込んで、色んなところに根回しして……。古雅は、姫子の後ろ盾をしたんだって。自分の力が強くなるし、恩は売れるし、マリは手に入るし、いいことだらけだから……」
 焼け付くような日射しに照らされ、死んだようなタイゾウがぽつりぽつりと話す。
 シオリは突っ伏して啜り泣き、メグミはなんとか立ち直ろうとしていた。
「古雅は何をしようとしてたの?」
「婚姻制度の改正」
「……同性婚とか?」
 へっと白々しく、タイゾウは笑い、んなわけねえだろと呟いた。
「有名人が離婚するとき、慰謝料がどうのこうのって話がよくテレビにあがるだろ?」
 うんと頷くメグミは、突っ伏したシオリを横目で見ていた。食べ残されたデザートやジュースは溶けきって汚水のようになっている。
「あれはふつう、お互いの協議で決まるよな。県によって差があるはすがない。あってはいけない。だよな? 法律なんだから。でも、古雅は離婚特区を作り出そうとしてる」
「はあ……離婚特区? なにそれ」
 意味分かんないんだけどとメグミが、眉間を揉んだ。
「俺もよく分かんねえ。えーと、日本でも最近、富裕層と貧困層に分かれてるよな? その富裕層狙いの法律で、稼ぎの少ない方に倍額与えるんだってよ。稼ぎが少ないってのは色々あるけど、フツー女だよな。だから女にとって優位な法律を作る。……姫子は立候補の際、これを目玉にするんだとさ」
「そんな法律出来るわけないじゃん」
 鼻で笑ったメグミに、意味深に引き攣った笑みを見せたタイゾウは長い溜息をついた。
「イギリスであるんだってよ。こないだニュースになってた」
 ニュースを表示させたスマホを向けると、メグミの目が素早く動いて、へえ……とだけ言った。二人とも、話してはいるが、事が巨大になりすぎて実感できない。
 選挙権も持ってない一介の高校生にとっては、立候補だとか、その裏にある大きな事情とか、大人たちの思惑なぞ、どうやってもピンとこないのだ。テレビやネットの向こう側で取り沙汰されていることが、突然目の前に降ってきても処理できるはずがなかった。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


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