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悔しがらせ金庫

   

大富豪で権力者である菅谷 英明はあらゆる贅沢をし尽くし、退屈な生活を送っていた。

そんなある日菅谷は、他者に己の財産を誇示し、かつ悔しがらせるような仕掛けを思いつく。業界一の職人を呼びつけた菅谷は、「中身が全て見えるが、絶対に不正には開けられない金庫」を作らせる。

出来上がった品は、菅谷の期待を完全に上回るほどのものだったのだが……

 

「退屈だのう……」
 東京郊外、ヨーロッパの城を思わせる大邸宅の一室で、菅谷 英明は呟いた。
 TVでは、様々な大企業の業績についての報道がなされている。 しかし、そんなことは菅谷にとってはどうでもいい。
 社会的にはいかなる大企業であろうと、彼が首を左右に振るだけで、たちまちのうちに潰れてしまうような存在に過ぎない。
 菅谷は、日本を、そして世界を闇から支配するだけの財力と権力を持っていた。
 思い付く限りの贅沢をし尽くし、力を振るい、美食に浸ってきた。
 しかし、どんな豪奢な暮らしも慣れるもので、一度マンネリ化してしまうと、その後は長い長い怠惰と退屈の日々を過ごすことになる。
 もちろん、生活の水準を下げることは苦痛を意味するので選択肢には入れられないし、敢えて身を危険に晒すことにも価値を見出せない。
 まだ五十歳になったばかりだと言うのに、菅谷は心底から人生に飽きていた。
「ううむ」
 何か面白いことはないかと、菅谷は地下の金庫に出向き、貯蔵してある無数の金の延べ棒と対面した。
 これが彼の資産、貯蓄である。
 菅谷は市場流通している紙幣や貨幣、電子マネーの類にはまったく興味を示さない。
 現在の貨幣は、市場の秩序維持といった観点から、価値の少ない金属でできたものに実際以上の値段を付けて流通させているものだし、紙幣は精巧ではあるものの、単なる紙である。
 電子マネーに至ってはデジタルデータに過ぎない。
 巨大な権力を持つ菅谷にとって、こうしたものをかき集めることは造作もないことで、だからまったく興味を惹かない。
 代わりに、本当の意味での希少性と古今東西を問わない価値を持ってきた金を集めているのだ。
 実際のところ金は極端に比重が重くきらびやかなので、携帯するなら宝石類の方がずっと便利なのだが、菅谷はダイヤではなく金だけを身に付けることにしている。
 莫大な財産を投じてかき集めているため、市場での金価格が高騰しているなんて話も聞くが、権力者である菅谷には誰も口出しできない。
「おお、やはり金の輝きはいいわい。純粋な、まさに黄金の美しさ。心が安らぐ」
 そんな菅谷がもっとも心を休められる瞬間が、大量の金と向き合っている時だった。
 この独特の美しさ、この優雅な輝きは他の金属では決して感じることはできない。
 しかも、集めれば集めただけ、迫力は増していく。
 世界中の主な金山はもちろん、砂金掘りのポイントにまで部下を配置し、漁ってきた何十年もの成果が、ここには集まっている。
 恐らく、これからどんな権力者が出てきたとしても、ここまでの量の金を一個人が集めることはないだろう。
 古今東西を問わず人々を魅了し続け、長い間価値そのものとして出回っていたこの鉱物の多くは、今や菅谷の手の中にあった。
(……そうだな。だったら、思い切って……)
 ぼんやりと眺めていた菅谷の頭に、一つのアイディアが浮かんだ。

 

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