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モノクロビオラ 2章

   

彼女は一体何者なのか。山の頂上で見せられた花は、線路沿いでは見ることのできなかった、死にかけた、枯れかけた花だった。

悪夢の中の景色は、少しずつ現実へと近づいていく――。

 

 彼女が、僕と同じ世界に生きているなんて、とんだ妄言だった。彼女は、僕の想像を遥かに越えていたのだ。
 だとしたら僕はぞっとする。そこまで取り繕って、何の悩みもないような顔をして、どうして――どうしてそこまで去勢を張っているんだ。
 だって、あなたは全然生きたくないんだろう?
 だって、つまりは――
「……死にたいってことですか?」
「ちょっと違うかな。……ねえ、生きたくないっていうのと、死にたいっていうのは全然違うことだと思わない?」
「わかりますよ。でも、全然生きたくないとまで言われると、いささか混乱してしまいます。そこまで言われると、死にたいと言われてる感覚ですよ」
 生きることを全否定することは果たして死ぬことと同義なのか。一般論で言えば、きっと同義だ。どうニュアンスをオリジナルに改編したところで、それは生と死が正反対の意味合いだという定義がある以上、覆せないものだと思う。
「じゃあ君は、なんで死に近づこうとするの?」
「え?」
「昨日、踏み切りの前で――」
「ああ、あれは、なんとなくです。卒業式っていうのもあって、なんだかいつもと違う道を通りたくなったというか」
 俺は彼女の顔を直視できないでいた。攻守が完全に逆転している構図だ。そんなときほど、僕が弱くなる状況は他にない。
「でも、言ってたよね。踏み切りの向こうに行こうとすると、恐らく死んでしまうんだって」
 それは、たしかに言った。言っていた。
「死を意識してるってことじゃない?」
「それには一応の理由があるんです」
「理由?」
 彼女は首を傾げる。
「ほぼ毎晩、あの踏み切りで電車に轢かれて死ぬ夢を見るんです。夢はそこまで鮮明ではないんですけど、それが正夢になるような確信がなぜかあって……」
「それで興味本位で近づいてみたってことかな?」
「まあそんなところです」
 それはやっぱり、死を意識しているということになるのだろうか。僕としてはそんなつもり、毛頭ないのだけど。
「じゃあ、トラウマってのもちょっと違うね」
「そうですね。過去に類似した何かがあったとか、友人を失ったとか、そういうことではないですから」
 そして、僕がそう言い終えたところで、彼女は突然立ち上がった。
「ちょっと着いてきてほしいところがあるんだけど、いいかな?」
「え、どこですか?」
 突然の彼女の提言に、僕は動揺する。ほんの数分話した程度の人について行ってもいいものか。
 いや、小学生じゃあるまいし、そこまで悩むほどのことではないのかもしれないけど。
「いいじゃない。公園に付き合ってあげたんだからさ!」
 この公園、家から徒歩5分なんですが……。
 ううむ……。まあ、どうせ暇だったし――
「あまり時間かからないところならいいですよ」
 そう言っておくことにした。
「時間は結構かかっちゃうかもね! あ、もうタクシー呼んじゃうから」
 恐ろしく強引だった。それでも、玄関を開けて威勢良く挨拶をしていたときの彼女が少し戻ってきた気がして、僕は安堵した。
 そこで、僕はまだ自分の心情の矛盾について気付いていなかった。
 いや、正確には、気付かないフリをしていた――。

 タクシーで約30分ほど。到着した場所はこの街で一番高い山の頂上だった。一番高いとは言っても標高400メートルくらい。頂上までしっかり舗装されている観光用の山だ。小学生の頃遠足で登ったのを覚えている。
「ありがとうございましたー」
 彼女、竹内春菜は元気良く運転手さんにお礼を言って、「さ、登るよ!」と僕の肩を叩いた。
「付き合うって、登山かと思いきや、もはや頂上じゃないですか。海でも眺めるんですか?」
「うーん。海もいいけど、海はなんだか無限の可能性を感じるから好きじゃないんだよね」
 どういう理由だよ……。
 海じゃないとしたら、じゃあなんなんだ。ここはせいぜい無人の休憩所があるくらいだし、山を探索するための登山道なんてない。
目ざわりなほど花が咲いてるくらい――

 

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