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SF・ファンタジー・ホラー

サクリファイス クロニクル編20

   

ロザリーナの目的は、シャルルにとって不幸な出来事で成功を成す。
そして、二人は薔薇十字団より先回りすべく、直様アーロン達の元へと馬車を走らすのだった。

サクリファイスと呼ばれる怪物を描いたオカルトゴシックダークファンタジー!

 

 僕は、闇に紛れて娼婦を襲った。ロザリーナの身体では男は襲えないと思ったから、酒に溺れた女を狙ったのだ。女は酷く抵抗したものの、僕はなんとかその女の血を口にする事が出来た。
 ロザリーナが捕まってから一晩しか経っていなかったが、彼女の事が心配でならなかった。一刻も早く会いたかった。
 体内でサクリファイスの力が目覚めると、僕は彼女の匂い目掛けて走った。レンガ造りの高い建物の上の部屋でロザリーナを感じたが、その部屋に灯りは無かった。僕は構わず壁をよじ登り、目に見えない神の力で窓を開けた。
「ロザリーナ!」
「シャルル!」
 彼女は僕を見て叫び、咄嗟に両手で口を塞いだ。ノックがした。
「どうした?」
 男の声に、ロザリーナは答えた。
「夢を見ただけです」
 男の吐き捨てる唾の音が、僕には聞こえた。
 僕は無言でロザリーナに近付くと、キスをした。互いの口の中で、プネウマが行き来した。
 僕の目の前に、ロザリーナの本来の姿があった。
「ロザリーナ、逃げるんだ」
 僕は、ロザリーナの答えも聞かず、窓から彼女を突き落とした。彼女が猫のように地面に着地するのを見届け、窓を固く閉ざした。
「侵入者だ!」
 僕が声を出した。
 それに気が付いた彼女は、僕を背後に走り出した。それでいいんだ。
 翌早朝、僕はきつく手首を縛り上げられ、村の中を引き摺り回された。カサンドラの刺々しい声が、村中に響き渡った。
「この男は、女の格好をし、男を誑かしては楽しんでいる。女を侮辱し、男の誇りも持たない、最低な生き物である。人間でもない、ただのクズだ」
 僕を蔑んだ目で村人達が見つめた。時に、腐った野菜を投げつけるものまでいた。石が飛び、僕の顔を傷付けた。僕は傷口を見られないように、サクリファイスだとバレないよう、顔を振って髪を顔に掛け、俯いてみせた。
 薪の山の手前で、カサンドラ隊は停まった。そこへ、何者かが質問を投げた。
「あんたらの目的を教えてくれ。あんたらの目的は、女を贔屓することなのか?」
 カサンドラは、答えた。
「否、私達の目的は、プロメテウスの火とサクリファイスの抹消だ。これは、ついでに過ぎない。だから、さっさと終わらすんだ。これは、私が女に生まれた宿命だ」
 同じ人間だろうか。また、質問が飛んだ。
「その、プロメテウスの火とかサクリファイスについて、説明はないのか? あんたらは度々こうしてこの村へ来ては、女贔屓をしているだけじゃないか。女贔屓と関係があるのか?」
 カサンドラは振り返り、冷たく笑って見せた。
「いいだろう! こいつを処刑しながら、説明してやる。だから、お前達も私に協力するんだな。このクズのようになりたくなければ」
 カサンドラが指を鳴らすと、僕を二人の女が抱え上げた。その一人の顔を見て、驚いた。
「シンディ?」
 彼女の眉間に皺が寄った。
「何故、貴方が私の名前を知っているの?」
 僕は、顔を背けた。
「遥か昔、人類は夢を見た。完璧であるモノに対し、憧れを抱いていた。そこで、錬金術を生み出したのだ。それは、不完全なモノを完全なモノにする技術であり、貧乏だけでなく病や死からの開放を意味していた」
 村人から、感嘆の声が漏れた。
「そして、それを手にしたのが二人の人間。彼等は永遠の財だけでなく、永遠の健康と若さと命を手に入れたのだ。その二人は、この力を持ち出し闇に紛れた。彼等の勝手な考えだけで、この秘薬であるエリクシールは使われる。だから、我々は彼等をプロメテウスの火と呼び、その力を人類に分け与えようとしているのだ」
 村人が拳を突き上げ、歓喜の声を上げた。
「プロメテウスの火が気紛れに創り出したモノが、サクリファイスである。彼等を抹消せねば、安心してエリクシールを皆に分け与える事など、到底できない」
 女の声がした。
「プロメテウスの火とやらを捕まえれば、貧乏からも解放されるのかい?」
 カサンドラが言う。
「そうだ」
 男の声がした。
「この、病気も治るかい?」
 カサンドラが鼻で哂った。
「治るどころか、もう病などにはならないさ」
 一瞬にしてカサンドラは英雄と化し、カサンドラの名が村中に木霊した。僕は、悪夢を見ているようだった。こうも容易く、この力は人の心を動かせるのか、と。
 そして、カサンドラは付け加えた。
「確かに、サクリファイスとなった人間は、万能かもしれない。だが、男には出来ない事が一つある。それは、子孫を残すことだ。男は、女がいなければ子を残せない。なのに、どうだ? 今の世の中、男が万能扱いじゃないか。だから、私は女を尊重する」
 カサンドラの声に、女達が声を上げた。
「さあ、処刑を始めよう」
 カサンドラの演説中も僕の処刑の準備は進められていた。高く縛り上げられた僕を、カサンドラが見上げた。
「お前が女の様な顔をして生まれた事が、私にとっては汚物と等しいんだよ。女の様な面の男が気に入らないんじゃない。お前の様な心理が、私には気に入らないんだ。その馬鹿にした態度、地獄で死の番人に見て貰え」
 僕の足元に、火が付けられた。炎は、三百年前と同じように、僕を呑み込んでいった。

*****

 

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