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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

8月のエンドロール 18

   

古雅殺しから一夜。誰とも連絡がつかなくなったシオリは、街をぶらつく。降り出した雨のなか、訪れる姫子との対決の時間。一方の春日井親子は互いを認め合おうとしていた。家光から語られる姫子との因縁に、タイゾウは驚き、事件を見届けたいと言い出し、夜の街へと駆けていく。
『力ある者』配信――

 

力ある者

 メグミが隠れて吸っている煙草を無性に吸ってみたかった。煙草というものは、こういうくさくさした気分を吹き飛ばすものらしいから。
 マリの古雅殺害から一日。
 シオリは家にいるのも息が詰まり、比野市の中央商店街をだらだら歩いている。 
 つまり、煙草をいつも吸っていた母はいつだってくさくさしていたってことだ。だからって、娘を殴っていい理由にはならないけど。
 ビーチサンダルをずる、ずるっと引きずりながら歩くシオリに行く当てはない。昨日別れてからタイゾウもメグミも、連絡に応じなくなった。きっと動揺して、どうしていいのか分からなくなっているんだろう。
 検索するも、ネットニュースにもSNSにも新たな情報は入ってきていない。
「どーしたらいいのかなぁ……」
 往来のど真ん中で立ち止まり、厚く垂れ込めた黒い雲を見上げた。比野中央商店街の天井はプラスチックになっていて、青空市場という名称もついているのだ。
 遠く雷鳴が聞こえ、紫色の雷がチカッと爆ぜた。シオリの複雑な胸中を映しだしたように急に顔色を変えた空は、辺りに雨の匂いを充満させていた。
 太鼓をでろでろと転がすような不気味な音が聞こえる。
 商店街を歩く買い物客は、早々に家に帰ろうとせかせかし出した。魚屋と惣菜屋の人混みが激しくなる。
 上を見上げて疲れたシオリは、はぁっと溜息をつくと、肩を落とし、またずりっ、ずりっと歩き出した。
 その背後、一条の光が天を地を繋ぐ。
 激しい雨が来そうだった。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


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