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SF・ファンタジー・ホラー

サクリファイス クロニクル編21

   

馬車を走らせるロザリーナ。
シャルルとロザリーナは、アーロンに薔薇十字団の事を告げるため、パリへと向かうのだった。

サクリファイスと呼ばれる怪物を描いた、オカルトゴシックダークファンタジー!

 

 ロザリーナは、隣の村まで全速力で馬車を走らせた。途中穏やかな川に掛かる橋やだだっ広い草原の間の道、林も抜けたが景色等見ている余裕はなかった。僕は窓枠にしがみつき、放り出されないようにしているだけで必死だった。
 僕等が屋敷を抜けたのは昼過ぎの出来事であった。そして、日が沈み闇が襲った。少し霧が出てきたところで、次の村に着いた事を伝える高い石造りの建物が見えてきた。
 やっと、ロザリーナが馬車の速度を落とした。
「日が沈むまでには、間に合わなかったわね」
 残念そうに彼女が呟いた。
「馬車の車輪だけど、朝確認した方が良さそうだ。移動中に、車輪が外れたら堪らないからね。それに、馬も酷く疲労しているよ」
 ロザリーナが、宿屋の前で馬車を停めた。
「馬車はここで別の馬車と変えるつもりよ。そして、私は男の姿になる。シャルルは、女の姿になるの。胸にはふかふかのパンを忘れずに」
 彼女が馬車から降り、宿屋の中へ入って行った。暫くして、ロザリーナが中から宿屋の主人と現れ、主人が馬車を手にした。
「馬車と引き換えに、今晩泊めて貰えることになったわ」
「お釣りを貰ってもいいくらいだ」
 僕が呆れて言う。
「シャルル、私はこれからあと三回は馬車を乗り換えるつもりよ。何故だか解る?」
 僕が、首を傾げた。
「カサンドラは、とても頭が良い女隊長よ。アーロン達を捕まえる為、私達と同じ経路を辿る。そして、いずれ気付く筈よ。シャルルが生きているようだ、あの男はサクリファイスなんじゃないのかって」
 僕は、唾を飲み込んだ。
 宿屋の主人が、ワインと軽食を部屋に持ってきてくれるそうだ。代金の対価が高額なだけに、とても親切にしてくれる。木造作りの内装に、木の階段を上がった先に僕等の部屋を用意してくれていた。本来は安宿なのだろう、一番広くて綺麗だと聞いていたが、黴と埃の臭いに、湿っぽさは拭えず、小さく溜息が出てしまった。
「貴族様、何なりとお申し付けください。こんな部屋しか御座いませんが、お気を悪くされませんよう全力を尽くさせて頂きます」
 主人が背中を丸めて、手揉みしながら言った。
「明日は、夜明けと同時に出発します。朝、軽食を二食分持たせてください。簡単で構わないわ。それから、新しい馬車を用意して。そのお金は明日、直接支払います」
 ロザリーナの言葉に、主人は頭を下げて出て行った。入れ替わるよう、その奥さんと思われる婦人が現れ、二人分のワインと食事を置いていった。
 部屋で、食事をしながら僕は言った。
「明日、あべこべの姿を宿屋の主人が見たら、それこそおかしな事にならないかな」
 ロザリーナが、答えた。
「その為に外套を用意しているのよ。大丈夫、心配ないわ」
 心配ないと言われつつも、僕の心には不安ばかりが蠢いていた。パンを口に運ぶ手が重く感じられた。先程まで、まあまあ美味しいとさえ思っていたスープや煮込み料理も、味気なく感じられた。
「ねえ、ロザリーナ。カサンドラ達とは、戦わなきゃならないんだろうか?」
 ロザリーナの手が止まる。
「そうね、出来ればぶつかりたくないわ。でも、私にも解らない。ただ、今はアーロンに全てを伝えなきゃ。それから、考えましょ。カサンドラが、私達の正体に最後まで気付かないって事もありうるのだから」

*****

 

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