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サスペンス

8月のエンドロール 19

   

 キョージと呼ばれたヤンチャ系がタイゾウを立たせると、胸に突き刺すような痛みが走って奇っ怪な呻きがもれた。痛みは蝕むように全身に広がる。肋骨が折れたかヒビが入ったらしい。目がちかちかして、歯を食いしばった。
「さあ、行くよ。早くやって仕事に戻らないと俺ら殴られるからさぁ」
 マリはシーツに包まれ、担がれる。猿ぐつわを噛まされたタイゾウは、地下階の駐車場に引きずられ、一台のバンの荷台に押し込められた。
「声出しても無駄だからね。ここ空きテナントしかないから」
 暴れようと機を窺っていたタイゾウの出鼻が挫かれた。スキンヘッドに両足まで手錠をかけられ、両手の手錠とロープで繋がれる。絶対に逃げられないという海老反りの姿になったタイゾウは、引っ張れられる痛みに喘いだ。続いて息するだけのマリも投げ込まれる。かくして二人は、ライトバンの荷台に詰め込まれた。
「じゃ、大人しくしてるんだよ」
 無情にも閉められる荷台から脱出できそうになかった。
 荷台と仕切りで区切られた座席に男たちが乗り込むと、エンジンがかかる。
 スロープをゆっくり上っていき、車は地上に出た。
(なんとかしねぇと……)
 だが、狭い荷台はごちゃついていて動こうにも動けない。ごとごと揺られて連れ去られていくなかで、タイゾウはわずかずつ位置を変え、激痛に脂汗を浮かせながら身を起こし、窓に張りついた。
 バンは見知らぬ街角を折れ曲がり、直進し、ときおり停車してなにかをやり過ごす。
 そして何度目かにやっと見知った駅前で停車した。
 カッチカッチとウィンカーの軽快な音が聞こえ、右折するのが分かった。
 北部の山に向うらしい。
 窓に張りついていたタイゾウの目に、一人の少女の顔が、彼女のそのきつい眼差しが飛び込んできた。
「!」
 メグミだった。一瞬だけ交わった二人の眼差しで、力強い線が出来る。
(気づいてくれた!)
 叫びたかったが、呻き声しか出ない。
 うーうー呻いていると、スキンヘッドが荷台を振り向いた。
「なんだぁ。うるせえなあ」
 ぎくりとして声をあげるのをやめる。
「あんまりうるさいとお仕置きするよ」
 あの眼鏡男が、助手席からちらと振り返り含みを持たせて笑った。タイゾウの額にどっと脂汗が浮く。
 だが、幸いなことに窓の外で起こってることにはまったく気づいてなかった。
 窓の外ではメグミが猛然と自転車を漕ぎ、バンを追いかけて車道を突っ走ってくる。
 タイゾウは顔を上げられるだけ上げて、助けてくれと必死に目で訴えた。
 シオリがなにか叫んでいる。
 早く来いとタイゾウは目で叫ぶ。
 だが、見る間に自転車は失速し、あっという振り切られた。

 

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