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ラブストーリー

なりあがる! 10

   

 一ヶ月が過ぎた。馬駒は執事として働き、初任給が入った。まずまずといいながらも、ほとんど金を使わない仕事だと改めて待遇が良いことを知った。
 そんなとき、事務所内の掲示板に貼られた周知に疑問が走る。
”金曜の夜、前棟一階、執事事務室の大部屋にて、執事会議を行う。時間は20時過ぎ。晩餐後とする。追記、メイド、家政婦も来られたし”。
 馬駒だけじゃなく、ほかの執事たちもめずらしい内容だと驚いていた。そこに神永が「あんたには関係が大有りのようだよ」と背後から囁く。
 どうやら、以前侵入してきたスパイになにか進展があったようだ。城谷が逃がしたが、そのひと月後、最近のニュースで報じられて知った。
”沖縄の浜辺で遺体となって発見されていた。死因は絞殺”。
 これがなにを意味しているか、そのことで従業員に警鐘を鳴らすために集まった。
 この執事会議で、従業員全員の顔を馬駒はみた。執事メンバー12かけるおそらく3倍いる。メイドは20名ほど。家政婦10名ほど。それに冠木家四名だ。
 №1執事の時倉は事態を重くみていた。冠木家の四人に災いが降りかかると憶測だが、信憑性がある事実だからだ。
 馬駒にも発破をかける。かなめにも災いが降りかかることを重く感じよ。つまりが、スパイを操っていた雇用主がいる。”兼松財閥”だ。なんら情報を得られない腹いせに、どんな手を使って襲撃してくるかわからない。従業員は一致団結して主を守ること。
 馬駒に守らせる覚悟をもたせた。が、そこに冠木家執事精鋭部隊が立ち上がる。

 

 一ヶ月が過ぎた。馬駒は初給与を手にする。振込みという手段だが、冠木家から私用で出ることはほとんどない。そのため、冠木家前棟一階の事務所横に設置されている現金自動預け払い機、ATM機がある。馬駒は明細書を手渡され、事務長の丹原に給与の振込みの確認と入出金が可能であると説明された。
「ATM機があるなんて、いままで気づかなかった。でも考えてみたら、ここに来てから現金を使用することがほとんどなかった」
 預金と初給与分の合計金額が表示される。
「おお」馬駒は画面のまえで納得したようにうなずいていた。「執事の初任給って…たいした額じゃないな。やっぱり」
 おそらくフリーターで一日8時間で23日前後、めいっぱい労働した方が確実に稼げているだろう。4、5万円分低い額だ。だが、出費について思いだし考えてみた。
「三食賄い付きで食費はかからない。料理長の出すものは格別にうまい。飲食類は食堂に常備自由にとれる。住み込みなわけだし家賃は不要だ。光熱費もかからない。インターネット使用制限なしで利用可能だ。執事の身だしなみにかかる衣服はすべて支給される。仕事着が決まっているから出費はない。クリーニング代も事務で申請すれば勝手に支払ってくれる。もちろん費用は個人ではない。自腹で金が必要になるのは携帯電話代、プライベート用の衣服、個人の趣味にかかる金。それだけだ。それが差し引かれての支給額なら…」馬駒は頭のなかで計算をした。多少時間がかかる。計算の得意な牧多なら、電卓よりも早く算出するだろう。
「得じゃね! 社会保険にも加入している。これは助かる。社会人なら社会保険に加入しないとな。もちろん同時に雇用保険と所得税も明細には差し引かれている。つまり社会人としての立場で働いているってわけだ。執事って業種もな…」
 このとき思い浮かんだひとりの人物があった。神永。
「こいつ、同じ待遇で仕事サボってばかりだ。たくっ、ぜったいなにか削ってもらいたいものだな」
 金額だけ確認して、まだ財布には福沢諭吉が二枚と夏目漱石が四枚あった。あと小銭だ。おろす必要がないため画面をタッチして、終了に触れた。
「鼻歌でも歌っちゃお~かな」
 ご機嫌な気分になると、ひとつ段階をクリアし、達成した充実感に浸り、心がおおらかになるのは性格ではないだろう。だれでも同じ気分になるときはなる。それはひとの内在している欲からくるものだろう。

 時間があったから事務所を素通りして食堂に赴く。自由に飲めるドリンクコーナーでアイスコーヒーをグラスに注いで飲む。久々に一人の時間を満喫しているのが心地よく、仕事にも多少は慣れてきて、なにをしたらいいか、そして一日の流れというものが自然と体が動くようになり、すでに城谷から執事になるためのノウハウを習得していた。と思い込んでいた。
 実際、城谷や丹原から小言や留意点など指摘されることがあまりない。あるとしたら人手が足りずに仕事の支持を受けるとき命令されるだけ。おそらく神永なら「めんどくせー」とか反発する敵意な目をむけられるだろう。しかし、馬駒はそういう精神面は養われていた。頭脳があって手足がある。城谷や丹原は頭脳で命令し、下っ端の馬駒はその手足になり、嫌悪せずに機能することが迅速に役目を果たせると思って仕事に就いていた。
 神永との差が縮まっていくのが周囲からも認められている。そのせいか馬駒には笑顔が増えて、表情が柔らかくなっていた。
「やっぱり、クロスの執事はいつまでたっても若輩者だな。おっとちがった”弱輩者”だったな」馬駒はいつになく勝気にいった。

 

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