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幻影草双紙72〜ネコババ(中編)〜

   

 小心な男が、ある日突然、魔が差したのです。

 

 
 土曜の午後7時である。
 銀行の、正面入り口のシャッターは降りている。
 脇の入り口だけが明るい。
 その中に、ATMが並んでいるのである。
 山田一郎は、ATMルームの中へ入った。
 山田一郎は、ATMの前に行き、財布から銀行カードを取り出した。
 ATMの液晶画面を見る。
〈カードを入れ、ご希望のボタンを、押してください〉
 画面には、このように書いてあった。
 そして、〈入金〉、〈引き出し〉、〈通帳記入〉などのメニューが並んでいた。
 山田一郎は、カードを入れた。
〈通帳をお持ちの方は、通帳をお入れ下さい〉
 通帳も入れる。
 そして、〈引き出し〉のボタンを押した。
〈金額を入れてください〉
 山田一郎は、5万円、と入力した。
 ATMが、作動している音がする。
 山田一郎は、画面を見続けた。
〈しばらくお待ち下さい〉 
〈所轄警察暑からの連絡です。振り込め詐欺にご注意下さい〉
〈金額が大きいので、ご注意下さい〉
 そして――。
 現金の取り出し口が開く。
 札が出てくる。
 山田一郎は、ぼんやりと、札を見続けた。
「え?」
 5万円だから、1万円札5枚のはずである。
 しかし、まだまだ、1万円札が出てくるのだ。
 そして――。
 かなりの枚数になると、取り出し口から、札が飛び出てきた。
「あっ」
 そして――。
 また、取り出し口に札が、出てくる。
 そして――。
 かなりの枚数になると、また、取り出し口から、札が飛び出てきた。
「どうなっているんだ」
 そして――。
 札がある程度たまると、飛び出してくる、というのが続いた。
 まるで、大当たりしたスロットマシーンから、金貨が飛び出してくるようなものである。
 ATMルームの床に、札が積み重なる。
 山田一郎は、あわてて、札を拾い、鞄に入れた。
 札を床に置いておくわけにはいかないではないか。
 鞄は、すぐにいっぱいになった。
 服のポケットにねじ込む。
 それでも、まだまだ、札は出てくるのだ。
 山田一郎は、鞄から、折りたたみ式のトートバックを取り出した。
 仕事の帰りに、スーパーで買い物をするときのために、持ち歩いているのだ。
 トートバックに、札を入れる。
 しばらくして――。
 ATMが止まった。
 鞄とトートバック、それにポケットは、札ではちきれそうである。
 周囲を見回す。
 誰もいない。
 この光景を見ていた者は、誰もいないのだ。

 

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