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SF・ファンタジー・ホラー

サクリファイス クロニクル編22

   

シャルル達が立ち寄った宿に居た娘は、かつての幼馴染ソバッカスによく似ていた。そこに、かつての親友ダミアンによく似た男が現れる。
少しずつ現れる錬金術の副作用。

サクリファイスと呼ばれる怪物を描いた、ゴシックダークオカルトファンタジー。

 

 この頃には既に、フランス革命の影響によって封建的特権制度の廃止が認められていたのだが、長い間重い税に苦しめられてきた民衆の生活が直ぐに一転する訳もなく、元貴族に対しての民衆の視線は冷たいものであった。フランス革命の混乱で外国へ逃げ去った多くの貴族達を、いずれは八つ裂きにしてやりたい。そう胸に秘めた民衆達も少なく無かった筈であろう。
 人は変わった。時代と共に、人は変わる。そう、思った。
 意思を持たない人形の様に生きてきた自分にとって、自由を得る為に立ち上がった人々が多少なりとも羨ましく感じた。
 宿屋に入り、驚いた。机を拭く娘が、ソバッカスにそっくりだったのだ。思わず、息が止まってしまった。
 僕が驚きに声を出せずにいると、ロザリーナが口を開いた。
「今晩、泊めて欲しいのだが」
 男装した彼女の凛々しいアルトが響き、その声にソバッカスによく似た娘が顔を上げた。彼女は僕等を値踏みするように見てから言った。
「貴族様をお泊め出来る部屋など御座いませんが」
「私達は、貴族ではないよ。外国から来た、歌手とその付き人だ。立派な部屋でなくとも、構わないよ」
 娘は、頭を深々と下げた。
「申し訳ありませんでした。どうぞ、ごゆっくりしていってくださいな」
「貴女、名前は?」
 僕の口から、ようやく出た台詞であった。
「リュリュと申します」
「ここに、お一人ですか?」
「はい。父も母も餓えと病気で幼い頃になくなりました。兄が出稼ぎのため、パリの兵隊で稼いで来てくれていましたが、フランス革命の最中戦死しました。この村のこの宿は、元々親戚の物です」
「親戚は?」
「昨年、肺を患って亡くなりました」
「そう」
 僕は椅子に腰掛け、リュリュに珈琲を頼んだ。
「シャルル。随分と彼女に興味があるじゃない」
 ロザリーナが嫌味っぽく言った。
「そう、かな?」
「…………」
 暫くして運ばれてきた珈琲は、とても薄い代物であった。
 流石の僕でも、少しおかしな状況である事に気付く。だが、きっと偶然だ。そう、どこかで思っていたのも事実だ。三百年前の因縁が、運命の歯車が動き始め、僕等がその中心にいるとは考えもしなかった。

 

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