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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

8月のエンドロール 20

   

8月のエンドロール最終話『夏の墓碑銘』
物語の幕がおりるとき。
彼女らが失い、得たものはなんだったのか――

 

夏の墓碑銘

 八月末日、午後十時。
 霊安室に立ち入れない三人は、真っ暗闇に染まる病院の屋上にいた。
 真夏の風になぶられる三人は、身体も心も満身創痍で、ぐったりとしていた。特にタイゾウの怪我は酷く、肋骨にヒビが入り、殴られて切った顔や箪笥に叩きつけた身体の至るところに包帯を巻いていた。
 風が泣いている。
 マリが死んだ夜の風は、街行く人が顔を覆うほど強く、彼女の怨嗟のように荒れ狂っていた。
 誰も、なにも話さない。
 肩を寄せ合ったシオリとメグミは、片やさめざめと泣き、片や脚を投げ出してコンクリートを睨んでいる。車椅子のタイゾウは、揺れるフェンスを掴んで、眼下に広がる比野市のネオンをぼうっと眺めていた。
 死因は解剖してみないとよく分からないらしい。
 だが、死を看取る者さえいなかったのに、解剖を望む者が果たしているのだろうか。
 マリの父親は死んだという。養母の姫子は逮捕騒ぎだ。
 これからどうやってマリは葬られていくのだろう。
 子どもである三人には途方もつかない手続きを経て、線香すらあげられなかったマリの遺骸はどこへ行くのだろう。考えると暗澹たる言葉しか出ない。だからずっと黙っていた。
 あっとタイゾウが気の抜けた声を上げた。フェンス越しにデパートの側面に取り付けられた掲示板を凝視する。
「……姫子逮捕だって……速報、出た」
 すんと鼻を鳴らしたメグミが、ポケットからスマホを取り出すと、タイゾウの言ったとおりに速報が入っていた。小さいディスプレイを覗きこむシオリが何度かまばたきすると、遠くを見、あふれ出た涙を手のひらで拭いながら立てた膝に顔を埋めた。くぐもった泣き声が風に流される。
「これは、さぁ。ないよなぁ」
 タイゾウがこぼし、疲労の濃い顔で車椅子に身を預けた。肩を落とす。バッテリー不足のメグミのスマホが、ふうっと明かりを落とした。
 屋上にもう明かりはなくなった。
 風だけが、大声を上げて叫んでいる。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


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