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幻影草双紙73〜ネコババ(後編)〜

   

 刑法第254条
 他人の物を横領した者は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。

 

 
 日曜日の朝である。
 山田一郎は、開店の時間に合わせてスーパーへ行った。
 スーパーの壁際、邪魔にならない所に、段ボールの空き箱が、沢山置いてある。
 商品を入れて、スーパーへ運ばれてきた段ボール箱である。
 商品を取り出せば、段ボール箱は、不用になる。
 その不用となった段ボール箱が、置いてあるのだ。
 その脇には、『ご自由にお使い下さい』と張り紙がしてある。
 山田一郎は、その段ボール箱をもらいに来たのであった。
 いちばん大きな段ボール箱を選ぶ。
 あっ、そうだ。
 ここで、ようやく、昨日の夜から、何も食べていないことを思い出した。
 鮭弁当を買い、段ボール箱をかかえて、アパートへ帰った。
 段ボール箱を、畳の上に置く。
 そして、5億円を詰めていった。
 大きな段ボール箱が、札でぎっしりとなった。
 上部に、ほんの少しだけ、隙間が出来るだけであった。
 その隙間に、古新聞紙を置く。
 そして、鉱物の雑誌を、その上に置いた。
 段ボール箱を、抱え上げる。
 5億円の札の重さで、腕が痛い。
 それでも、ようやく、押入へ持ち上げ、奥へ押し込んだ。
 さらに、段ボール箱の周囲に、新聞や雑誌、それに週刊誌を置いた。
 こうしておけば、古新聞や古雑誌が押入の奥に積んである、と見えるであろう。
 山田一郎にとっては、最高のアイデアなのである。

 これでようやく一息つける。
 山田一郎は、お湯を沸かしてお茶を作り、鮭弁当を食べ始めた。
 濡れ手で粟の5億円が手に入ったとしたら、何をするであろうか。
 ランボルギーニ……。
 オテル・エルミタージュ・モンテカルロ……。
 そして酒池肉林……。
 山田一郎に、こうした発想はなかった。
 鮭の切り身を食べながら、アメジストの原石が買えるな……、と思うのであった。
 その日曜日は、山田一郎にとって人生最良の日であったろう。

 

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