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ラブストーリー

なりあがる! 13

   

 冠木陣営は20時過ぎに、樺庭の指定されたビルへおもむく。かなめを救出するのに準備ができた以上、先手必勝の構えだ。

 廃ビル10階に着いた。かなめは椅子にロープで拘束されていた。写真と同じ光景を目の当たりにし馬駒は冷静さを失う。が、暗闇から渦中の樺庭が現れた。
 不敵な笑みを浮かべる樺庭に、時倉が言い放つ。
「悪に侵食された理由がおまえにはあるはずだ」

 樺庭の嘲笑がむけられる。”旦那様に恩がある”という。樺庭の少年期は、世の中を蔑み、他人を無能と嘲る。弱者同士が楽しそうに笑いあう。どうしてそんな顔で話ができるのか。わからない。そして本心は妬んでいた。
”羨ましい”のだと。
「なにがあった?」
 時倉は問いつめるも樺庭は怒号をあげるだけで応えない。

 そして、一発の発砲は、冷暗のなかで白い煙を巻いた。

 決戦前に、かなめは樺庭の心をのぞく。荒んだ心は、瞳から覗ける。目は嘘をつかない。
 そして、かなめの問いかけに樺庭の心が揺さぶられていく。

 ついに戦いのときがきた。冠木ファミリーVS兼松ファミリーの行く末は?

 

 夕焼けの赤い空を、夜が侵食しはじめていた。その頃、冠木陣営は、樺庭の指定された場所へ到着した。21時の予定時間を前倒して20時過ぎにそのビルのまえに佇んでいた。
「使っているビルか?」
 城谷がいった。
 見上げたが、少々古びた高層ビルだ。ぞろぞろと並んでなかへと入っていった。すると、20階建てだとわかった。しかし、待ち合わせ階は半分の10階のフロアとメールの本文には記されていた。
「エレベーターは稼動している」
 鷹丘がいった。
「そりゃあそうだろう。兼松の配下の者たちだって、階段で10階まで上げ下げは酷だろうからな」
 城谷がこたえた。
「ということは、このビルはいったいなんだってんだ?」
 馬駒が疑問を投げたが、それにはだれも返答しなかった。
 とうぜん。このビルの所在は不明だからだ。
 不動産業を営む兼松の財産のひとつだろう。それも金の花が咲かない枯れ木のように。
「むだな建物だな、ここは」
 馬駒がいやみっぽくいった。
「まったくだ」
 加治木が同感した。
 旦那様はくちを閉ざし最後部の位置にいる。川面がそばで見守るよう城谷から言付かっていた。川面は周囲360度、警戒のために見渡していた。
 ほかの執事たちも安全確認をし周囲を警戒しながら前方を歩く。そして、エレベーターに乗り込み10階をめざした。
「直接、対決だな。穏便にいきたいものだったが、むりか」
 草輔が狭いエレベーターの箱のなかで息をもらす。
「しかたありません。強奪されたいじょう、おなじように奪い返させていただきましょう」
 時倉がいった。
 男たちの顔がひきしまった。
 体感で、緩やかに上がりはじめて、停止するエレベーター。それは到着した合図だった。
「開くぞ。なにが飛び出すかわからない。身構えておけ」
 城谷がいった。
「わしを盾にしておけばいいからな」
 その顔は満面の笑みを浮かべていた。ほかの執事たちの信頼があるからこそ生み出る笑みだ。
 大きく開くエレベーターのドアのさきは、真っ暗闇だった。
「なるほど」
 時倉が察した。
「これではむこうがわがどうなっているか皆目検討もつかない」
 暗闇のなかに敵が潜んで握りこぶしほどの石でも投げてきたら手負いは免れない。それも無数に。身を盾にしている城谷の巨体と闘牛のような闘争心は、打ち抜かれてしまうだろう。だれもが畏怖した瞬間だった。
「後手にまわる」
 牧多が計算外だったと眉間にしわが寄った。
 だがとても静かで変化がない。殺気もなければ人気すら感じない。
「どういうことだ。10階だろ。だれもいないのか」
 城谷が先頭にエレベーターからのぞくように左右を警戒しながらみる。
 だんだんこの暗さに目が慣れてくると、廊下からさらにフロアに続く扉があるのがわかった。どうやらそのなかにいるのかもしれない。
 ここからはだれも声を発するものはいなかった。感覚で感知した。”いる”と。
 執事たちは扉を探す。どこか入れるところがあるはずだと。川面が右側をひとりで進んでいたら、扉があるのをみつけた。
「こっち」と声にならないほどの声で発したが、オーバーリアクションで全員に知らせることができた。
「なんだあの動きは?」
 城谷だけはわかっていなかったようだ。
「もう、しっかりと手振りでしめせ」
「そんな余裕はないでしょ」
 馬駒がいった。
 扉を開く。すると、生温かい空気が廊下に流れた。
「エアコンの温風だと思うこの感覚」
 加治木がいった。
 馬駒がまえに出ようとする。
「かなめ嬢は手荒く監禁されているわけではないということだな」
「そうだといいんだが…」
 時倉がいった。
「相手はあの樺庭だ。あのスパイを葬ったやつだからな」
「よせ」
 草輔がいった。その顔は明らかに不安が顕著に現れていた。
「マイナスな発言はじっさいにそういう結果になりかねないものだ。期待も大きすぎては裏切られる。ダメージはでかい。だが、われわれが抱く心には、救いたいというモチベーションでここにきたことを忘れるな」
「わかってます」
 時倉がいった。ほかの執事もうなずいた。

 

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