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ハートフル

モモヨ文具店 開店中<1> 〜名入れ承ります〜

   2015年3月6日  

日の出県月世野町二丁目。県道十二号に面した場所にあるモモヨ文具店。
店主の福永百代(ふくなが ももよ)さんが経営するのは、先代から受け継いだ六坪ほどのお店。
今回は引き戸に張られた【鉛筆一本より無料名入れ承ります】をめぐる女の子のお話。
いつもの毎日がいちばんいい日になりますように。

 

鉛筆名入れ承ります

「本当に、一本からでも名前彫ってくれるんですか? ひらがなでお願いしたいんですけど。ひらいわ ゆうと、で」
「はい。構いません。三分ほどお待ちください」
 戦隊物が描かれた一本九十円のHB鉛筆三本を受け取るとレーザーカッターで【ひらいわ ゆうと】と彫り込んだ。出来上がるとカッターのスウィッチを切り、薄緑の縦長封筒に入れて赤いテープで留める。
「お待たせしました。合計二百七十円になります」
「え、名入れ代金無料なんですか?」
 ゆうとくんのお母さんが驚く。ふつう手間のかかる名入れは鉛筆なら一ダースからと相場が決まっていて、一本からなどという店はない。あっても別料金で五百円くらいは取られる。
「はい。裏に月世野小学校があるでしょう? そこのお母さんたちからの要望でこうなりました。みなさん、いいお得意さんです」
 ゆうとくんのお母さんが「ありがとうございます!」と勢い込んで、お財布を出した。
 息子のゆうとくんは、少々元気のよすぎる子で、貸し借りの際に失せ物が多い。先月は鉛筆だけで十本はなくなっている。一本九十円の安物でも、立て続けになくされると金額よりもまたか、という気持ちになる。
 一計を案じたゆうとくんのお母さんはゆうとくんの通う月世野小学校のママ友の薦めもあり、このモモヨ文具店で名入れをすることを決めたのだった。
「ええ、うちは名入れは何本でも無料ですからどうぞご利用ください」
 柔らかい微笑みを浮かべる人あたりのいい店主が言う。
 店主は三十前後のまだ若い女性だったが、物腰といい言葉遣いといいしっとりとした古めかしい店に馴染んでいた。
「また来ます! 大雪警報が発令されたから、もうどこにも行けなくて! ありがとうございます!」
 ぺこぺこ頭を下げて行くゆうとくんのお母さんを見送り、二百七十円きっかりを受け取った店主は、「またお待ちしております」と会釈した。

 

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