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ハートフル

モモヨ文具店 開店中<1> 〜名入れ承ります〜

   2015年3月6日  

 女の子はふて腐れたように、ちょっと身を引いた。だが目線だけは百代さんの手元を見ている。
 なんとか勝ったらしい。
 ひとまず残り五本まで来たので、さっさと仕上げる。
 女の子は、なにが面白いのかじぃっと目を皿のようにしてレーザーによって描き出される文字を見ていた。
 残り一本を仕上げると、スウィッチを切る。出来上がった物をプラスチックケースに戻し、作業台に置いてある注文箱に入れた。
「はい、お待たせしました。なにをお探しですか?」
 女の子は腕を腰にやってふんぞり返った。小さな身体がぐぃんと仰け反って、百代さんは微笑ましくなった。
「鉛筆」
「鉛筆? 鉛筆だと、このあたりが人気ですねえ」
 小学生相手にもあくまで丁寧な姿勢を崩さない百代さんが、店内に三列に並んだ一番左の棚に案内する。棚の二列目、身長の低い子たちにも取れる定番位置にある女の子向けキャラクター鉛筆やポップなイラストの鉛筆を指すと、女の子は「違うの!」と手足をバタバタさせ地団駄を踏んだ。
「よく書けるやつがいいの! これ! インターネットで調べたの!」
 女の子がポケットからプリントアウトした鉛筆の画像を出す。
 そこに出力されていたのは、知る人ぞ知る鉛筆だった。
 画家先生が愛用しているのがクロッキー帳に吸いつくような柔らかくデッサン重視の鉛筆ならば、この女の子が所望しているのは紙へのタッチが硬めながら力を入れることなくサラサラ書けるという一品だった。実は学習用に最適なのだ。
 なんとマニアックな選択だろうと文具マニアが講じて文具屋に勤めて店主にまでなった百代さんは胸の裡で万歳した。
 マニアはいるところにはいるのだ。それがたとえ小学生であっても。
「ありますよ。こっちです」
 視線を上の三段目の棚に。ずらりと並んだ鉛筆ケースの最上段。
 漆黒の百五十円は、蛍光灯の明かりを弾いていた。
 女の子の顔が、わっと華やぐ。目をまん丸くして漆黒を吸い取った。
「十本ちょうだい! それで名前入れて! 一本からでも入れてくれるんでしょ?」
 たしかに引き戸には【鉛筆一本より無料名入れ承ります】と書いたPOPが張ってある。だが、とりあえず十本取った百代さんはちょっと困惑した。
「いいですけど……十本だと、千五百円になっちゃいますよ」
 大丈夫ですか? の言葉を、女の子は嫌った。まるで子ども扱いされるのを嫌がっているように百代さんを睨みつけた。
「ある! お金ならあるから! 嘘だって言うなら先に払う!」
 そして本当に赤い財布をポケットから引っ張り出すと、千五百円を百代さんに押しつけた。

 

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