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ハートフル

モモヨ文具店 開店中<1> 〜名入れ承ります〜

   2015年3月6日  

 百代さんの言葉に、深海の大きな目からぼろっと涙がこぼれた。そのままストーブの前でぐすぐすと泣き出す。紅葉のような小さな手がぺたぺたと顔を覆う。深海はなんとも壮大な決意を背負ってこの店までやって来たのだ。店に入ってきたときの居丈高な態度は心細さを押し殺すものだったらしい。
 勇敢な彼女の勇気に応えるべく、あらあらと百代さんが飛んでいって、背中を擦った。鼻を啜り、健気に涙を堪える深海は小刻みに震えていた。
「どうしたらいいかな。どうしたら仲直りできる? 鉛筆いらないって言われたらどうしよう!」
「大丈夫ですよ。礼央くんは絶対、受け取ってくれます」
 自信満々に言う百代さんに、深海は頬を膨らました。
「なんで? だっていらないって言われるかも……もうおこづかいないし、違うの買えないし……」
 百代さんはふっくらした笑みを見せると、長い指を一本立てて深海の鼻先で揺らした。
「だって、毎日喧嘩した深海さんのところへ来てくれるんでしょう? 一緒に学校行こうって。礼央くん悪いって思ってるんだよ。でもなかなか言えないのが男の子なんだなあ。お手紙書いてきてくれる人に鉛筆渡すのぴったりじゃない?」
 そうかなぁ、大丈夫かなあと心細くてひとしきり泣く深海を慰める。
 慰めていた百代さんの目尻が下がり、口元がほころんだ。
 誰だって、こんな小さな時期があって些細なことで不安になって泣いたのだ。
 きっと深海は礼央のことが好きなのだろう。礼央もまた深海を憎からず思っている。
 互いの思いと不安が入り交じって、礼央は手紙を、深海は鉛筆を渡す。
 ごめんねの言葉と共に。
 百代さんは、深海が払った千五百円以上の物をもらった気がした。
(微笑ましいなあ)
 ほくほくが溜まる百代さんと同じく、雪が静かに降り積もっていた。

 

-ハートフル
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