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ハートフル

モモヨ文具店 開店中<1> 〜名入れ承ります〜

   2015年3月6日  

 
 薄緑色の二つの封筒に礼央の分と、深海の分を入れるとビニール袋に入れて手渡す。
 裏手にある月世野小学校から下校のチャイムが鳴るが、児童は一人も出てこない。ゆうとくんのお母さんの言ったとおり、大雪警報が発令されてみな帰宅させられたらしい。
「送っていきますよ。大雪警報が出ているから、一人だと危ないからね」
 ビニール袋を下げた深海は頷くと、店先に出て傘を取った。
 百代さんは
【外出中 一時間程度で帰る予定 急用の方は下記連絡先まで】
 とミニ黒板にメモして戸締まりをした店の軒下に置いた。
「さ、行こう。滑るから気をつけて」
「うん」
 百代さんが差し出した手を、深海は握った。
 積もった雪はすでにレインブーツを履いた百代さんの足首まで来ている。
「ずいぶん積もったねえ。こんなに積もるのは私の小さい頃以来ですよ」
 ひょえーと辺りを見回して驚いている百代さんを尻目に、長靴を履く深海は雪を蹴飛ばしながら歩いた。ふふふっと笑い声がもれている。雪は被害も甚大だが、適度ならば恰好の遊びになるのだ。
 さくっ、さくっ、さくっ。
 かき氷を突き崩すような音だけが辺りに響く。
「誰もいないねえ」
「いませんねえ。静かですねえ」
 腕時計を確認するとまだ四時にもなっていない。
 月世野町は一面の銀世界で誰もいなかった。ただ雪が静かに静かに降りしきり、家々の明かりが灯っている。
「おうちは一丁目のトモミ薬局の裏でいいんだね?」
 うんと頷く深海は、けれど気乗りしていない。
 ははーんと百代さんは勘づいた。
「もしかして、黙って来ちゃった?」
 うろうろと視線を彷徨わせた深海は、ややぎこちなく「うん」と言う。
「……お母さんに怒られると思って。学校行ってないのに、文具屋さん行ったなんて言ったら……」
(世間体を気にするお母さんなのかしらね)
「じゃあ私から一言付け加えてあげますよ。深海さんは、大事なお客さんですからね」
 にこーっと笑って覗き込むと、深海も笑みを返した。
 子どもっぽい、安心と無邪気さに包まれた笑顔だった。

 

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