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ハートフル

モモヨ文具店 開店中<1> 〜名入れ承ります〜

   2015年3月6日  

 
「まあまあ、ありがとうございました」
 結局、深海は不登校をしてるのに家を出て怒られたのではなく、大雪警報を無視して出かけたことを怒られた。しきりに頭を下げる深海のお母さんに恐縮し「深海さんには、たくさん買っていただきました。またよろしくお願いします」とお願いした。
「本当に申し訳ありません。……あの、福永文具店さんて、小学校の裏の」
「ええ」
 応じるとやっぱり! と百代さんとそんなに変わらないだろう母親が手を打った。
「おじさんよくおまけしてくれたんですよ! 消しゴムとか、鉛筆とか。その節はお世話になりました」
 聞けば父の栄治も、よくおまけだと言って色々くれたらしい。
 百代さんは苦笑するしかなかった。
(これはお父ちゃん譲りか)
「また伺いますね。ほら、深海! 挨拶!」
「あ、ありがとうございました」
 深海が言って、ちょいちょいと百代さんを手招いた。
 屈み込むと、口に手を当てて百代の耳元でこそこそ話す。
「……頑張って鉛筆、礼央くんにあげる。それで一緒に学校行く」
「きっと喜んでくれますよ。受け取ってもらったら、次はおすすめの鉛筆削りも教えるよ」
 笑みを見せた深海は、雪のなかに咲いた可憐な花のようだった。
 ひらひらと手を振られるなか、百代さんは一人文具店に戻っていく。
 いつもと変らぬ日常がちょっとだけほっこりした。
(やっぱいいよなあ。文房具)
 変っていく物、変らない物。
 それぞれの思いが、百代さんの胸に押し寄せ、感無量になった。
 冷たい空気を吸い込んで、一気に吐き出す。
 よし! と気合いを入れた。
(がんばろ)
 ルルルルとポケットの携帯が鳴った。
 どうやらまた一人、雪の中で困っているお客さんがいるようだ。
 百代さんは携帯を耳に当てると、きりっと答えた。
「はい、モモヨ文具店です。はい、もちろん、開店してますよ」

 

鉛筆名入れ承ります CLOSED

 

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