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ラブストーリー

なりあがる! 15 完

   

 兼松は誘拐事件の首謀者として逮捕された。所有するすべてを冠木社長が買収した。かなめのわがままをきく父親だった。が、そうすることが最良だともわかっての行動だった。

 本当の首謀者である白樺の貴公子は入院していた。胃潰瘍で、もう少しで悪性に転じるところだった。
 時倉が見舞いにくるが、樺庭はもう自分は表舞台には立たないと名言する。
「―血が騒ぐ。おれも、そうだが、おまえも―」と意味深なことをいう。
「これから鳥かごのなかで囚われる身…」などとせっかく取り留めた命が、人生をあきらめてしまった発言に、時倉は言い放つ。まるで、かごから飛び立つことはできるといわんばかりの激励を。

 半年後。ブームが巻き起こる。冠木執事が身につけている自身の象徴であるモチーフのバッチが、一般的にひろがり流行している。火付け役がなんと、神永だった。時倉がいっていた素質。それが開花したのだ。
 馬駒は苦笑するしかなかったが、認めた。人は成長し変われるのだと。

 そんな馬駒も変わるとき、いや告げるべきことをいうときなのだ。かなめは待っていただろう。ただ、周囲を巻き込み一世一代のサプライズが巻き起こる。
 驚くのは未来ある男女、だが盛大に喜んだ。幸せの連鎖は笑顔とともに周囲のみんなに広がっていく。
 祝福をくちにするだけで心は満たされて、自分の幸せをみつけようと意思は強くなる。

 ハートフルな執事物語、ここに完結。

 

 城谷は下の階で抗争している連中を放置して追いかけてきたようだが、馬駒は戦況を気にしてたずねた。
「だいじょうぶだ」城谷は満面の笑みでこたえた。「神永のやつが思っていたいじょうのリーダーシップをとれるようでな。指揮を任せてきた。戦況もこちらが優勢。圧倒的なまでにな。勝因はあいつの行動あってのものだな」
「見上げたものだ。忍ぶ心がこんかいの勝利を導いたと思いますね」馬駒はいった。
「そのとおりだ。時倉くんがいっていた意味が少しはわかってきたかい?」
 馬駒は苦笑した。
「そうだなー、認める」

 兼松 大蔵は、気を失った後、そのままロープで縛り上げ、こんかいの誘拐事件の首謀者として逮捕された。
 兼松の持つ財産は、不当となり、すべて売却にあう。兼松の名が所有している商業、不動産、土地、そして株価は下落したが、事業のすべてをある人物が買い取った。
 その前に、兼松を除く重役会議で決定したのは、もはや企業としての立て直しは不可能。兼松個人が起こした罪のせいで信用度はなくなった。しかし、そこにひとりの実業家が同席することになる。
「わたくしどもと合併していただこう」
 提携することで兼松のブランドを保持することができるのなら、しかたがないと同意した。
 その提案したのが、冠木 草輔社長だった。
「あれだけのことをされたのに、だいじょうぶなのですか?」
 ベンツ車で運転する丹原がたずねた。
「いいんだよ。これは、娘がいいだしたことだ。倒産するのを食い止めるすべがこの手だった。おそらく、娘の彼とおなじような思いにさせたくないのだろう。まるで救済の女神ではないか。我が娘にしてはいい性格に育ったものだ」
「そうですか」
「ああ、社長として、父親として、娘のわがままはきいてやるものだ」
 微笑を絶やさない草輔だった。

 白薔薇の貴公子は、入院していた。吐血の原因はストレス性の胃潰瘍で、危うく取り返しのつかない悪性に発展するところまできていた。執事としてまじめに勤めようとしてむりをし、みずから迷走してしまい、追い込んだのは本人だった。

 療養して再び立ち上がれ、と時倉は個人的に見舞いにきた。が、樺庭は、もう表舞台に立つつもりはない、と返した。
「本心であればな」時倉がいった。「きっとそうやってテレビを観ていれば、血が騒ぐ。おれもそうだが、おまえもそういう人間だ」
 時倉は病院にあるテレビをみつめながら意味深なことをいう。
「なにをいっている―」
 樺庭はわけがわからなかった。
 樺庭はベッドの入りながら窓の外をみていた。枝に小鳥がとまって、毛づくろいしていた。
「罪を犯した者は、かならず償わなければならない。後ろ盾も実権もないおれには頼れるものはなにひとつとしてない。失った者の定め―」
 時倉は黙ってきいていた。
 毛づくろいを終えたのか、羽を休めるためにただとまっていただけなのか、ふたたび自由に空を飛んでいった。
「これから鳥かごのなかで囚われる身、どのくらいの年月かかるかわからない。おれの背中にはもう翼はもがれてしまったのだから」
「どうかな、鳥かごの中の鳥には罪はない」
 時倉はそういうと去っていった。

 

-ラブストーリー


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