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ハートフル

熱田の小さな奇蹟

   

熱田神宮のお守りに記載せれていた伝説が素敵だったので、ちょっと調べて書いてみました。
ほっこり読みやすい短編です。

 

 私、神谷葵(かみやあおい)は一人、熱田神宮に来ていた。
 子供の頃から内気で、あまり人に馴染めず、それでいて一人で行動することが最も苦手な私が、一人で足を運べる唯一の場所。
 パワースポット、癒しを求めてと言えば聞こえはいいが、家に居れば友達の少ない私をを、母が心配する。だから、休日は友達と出掛ける様を装って、私は熱田神宮に足を運ぶのだ。
 ここは、良い。緑も多いし、境内はとても広く、散歩には最適だ。何より、空気が澄んでいる。観光客だけでなく、一人で歩く参拝者も多いから、人の目なんか気にならない。
 熱田神宮に着くと、先ず私は、境内にある宮きしめんにて、いつもの様に昼食を摂る事にした。簡易な屋根とテーブルと椅子で作った様なこの店は、オープンテラスに近く、とても開放的だ。
 シンプルな赤つゆベースのきしめんを注文し、セルフスタイルのネギを少し多めに盛ると、着席して麺を啜った。いつも食べているけど、やっぱり美味しい。境内に流れ込む優しい風が頬を撫でる度、丼から立ち上がる湯気が、鼻腔をくすぐる。出汁と醤油の香ばしく少し甘い匂いに酔いながら、きしめんを食べ終え、最後の汁を飲み干すと、ほっと安心するのだ。ここでようやく、参拝に向かう為の気持ちの準備が整う。
 砂利の道をザクザク音を立てながら進み、時折緑と緑の間の道の様な青空を見上げ、深呼吸した。今日、神様に聞いて貰うことは決めている。
 再就職して三ヶ月。そろそろ仕事も覚え、職場に馴染んでも良い頃なのに、失敗ばかりで覚えるどころか、毎日怒られてばかりだ。その上、環境にも馴染めず、友達も出来ない。週末の飲み会にも、私は一度も誘われたことがない。そんな私の惨めな愚痴を聞いてくれるような恋人でも居ればいいのだけれど、良く言えばインドアな私にそんなに都合良く出会いもあるはずがなかった。正直、仕事を変わろうかとも考えるが、今の私では何処に就職しても同じ繰り返しの様に思う。だから神様に、毎週私のこんなつまらない愚痴を聞いて貰っている。
 手水舎で左手、右手、口と順に清めると、その隣の大楠に目をやった。いつ見ても迫力のあるどっしりとした大楠は、私の憧れだ。こんな威厳のある人物だったら、こんなに惨めな気持ちになる事もないのかなっと時々考える。帰りにもう一度寄って、裏の柵の隙間から根っこを少し触らせて貰おう。大楠のパワーを貰おう。そう思った。
 本宮に足を運び、神様に散々愚痴を聞いて貰う。その後、別宮八剣宮に移動し、再度神様に愚痴を聞いて貰う。
 別宮八剣宮は本宮から少し離れているものの、同じ境内にあり、こじんまりとした静かな印象だ。人も少なく、観光地と兼ねた本宮に比べて神社らしい。お参りをしていると、奥から風が通り抜け、暖簾が大きくめくれ上がり、奥が見えることがある。そんな時、神様が私を見ていてくれるような、語りかけてくれているような、そんな気分になるのだ。
 本宮と別宮八剣宮。この二舎に参拝してからが、私の熱田神宮内散歩タイムである。
 大楠の方向に戻ろうと歩みを進めると、途中、赤茶けた立派な鶏、名古屋コーチンが居た。境内では珍しくないこの鶏が一匹、少し遠くから私の事をジッと見つめているのだ。
 最初は、近づけばその鶏は逃げていくだろうと思ったのだが、鶏は道の真ん中で微動だにせず、私が近づいても尚動かず、ジッと私を見たままだった。
「どうしたの?」
 と、問うてみた。すると鶏は顔を上下左右に動かし、くるりと向きを帰ると、トテトテとお尻を振りながら歩き出し、時折私の方を振り向いては、首をまた上下左右に動かしては歩みを進めた。まるで着いて来い、と言わんばかりにだ。
 私は半信半疑に、少しだけの好奇心を混ぜて、その鶏の後を追ってみた。
 大楠の前で、鶏を見失ってしまった。
「あれ?」

 

-ハートフル


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