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ハートフル

モモヨ文具店 開店中<2> 〜真夜中疾走ノート〜

   2015年3月13日  

あなたのノートは罫線だった? A罫? B罫? それとも無地か方眼?
今日も今日とてモモヨ文具店には訳ありのお客さんが集まります。
今回は方眼ノートをめぐる人見知りの女子高生・愛実ちゃんのお話。真夜中に訪れた彼女が方眼ノートを使う理由ってなんだと思う?
『真夜中疾走ノート』開店します。

 

 
 机に向っていた高田愛実(たかだ あみ)は焦っていた。
 手持ちのノートがあと数ページで終わってしまうのだ。ストックはない。
 これでは明日までの課題が仕上がらない。春休みも目前だというのに、化学と日本史で課題が出ている。おまけに化学の太田先生は未提出者にはとんでもなく厳しいことで有名だった。
 時刻は午後十一時五十三分。愛実は迷わず席を立った。
「ママ! ちょっとコンビニ行ってくるね!」
 財布とスマホを持った彼女は、部屋着の上からコートを引っかけると三月上旬のすこし暖かくなってきた夜風が吹く月世野町に繰り出した。
 高校一年終わり間際という中途半端な時期に引っ越してきた愛実は月世野町の土地勘がない。おまけに月世野町はコンビニが少ない。スマホの地図アプリを見ながら、やっとの思いで辿り着いた駅前のコンビニに目当てのノートはなかった。
 ある確率は限りなく低かったが、万が一と思ったのだ。
(困った……あれじゃないと書きづらくて)
 文具コーナーをうろうろしているのが気になったのか、オーナーとおぼしきおじさんが「探し物?」とレジの向こうから声をかけてきた。暇すぎる店内には愛実とおじさんのほか、誰もいない。
 人見知りの愛実はびくうっと肩を竦めたが、こくこく頷いた。カアーっと顔が赤くなって、冷や汗が出る。
「あっ、あああああああの! だっ、大学ノートなんっ、で、すけど……ここに、あるのじゃなくて……」
 ひどい言葉の突っかかりにおじさんが目を丸くしている。
(やだよー。帰りたいよー)
 だがノートを手にするまでは帰るわけには行かなかった。
「ノートが欲しいの?」
「はぁ、はあい」
 返事なのかなんなのか不明な言葉を発した愛実だったが、懸命に目で「そうなんです! 欲しいのはノートなんです!」と訴えた。
「でもねえ、うちで取り扱ってるのはそれだけなんだよねえ」
「そ、そ……う、ですか」
 コンビニの陳列棚に並んでいるのはごく一般的なB5の罫線ノートか無地。方眼もあったが、メモ帳だった。
 愛実が欲しかったのは B5の方眼ノートだった。
 方眼ノートは視覚的に情報を整理することに長けている。化学式や日本史の年表でも罫線ノートより数段分かりやすく書けるのだ。上下に分けて図と解説をつけてもいい。見開きでも使える。これが罫線だとなんだか抵抗がある。さらに言えば、罫線の狭さがないのがいい。あれは嫌だ。文字が窮屈だ。つまり方眼とは愛実にとって自由にやっていいよと言われているものなのだ。かといって自由すぎる無地は少々苦手だった。
 以上のことを、懸命に身振り手振りを交えて「買って帰らないと、しゅ、宿題終わらなくて!」と冷や汗をだらだら流しながらおじさんに説明すると、おじさんはうんうんと頷いた。
「じゃあ、モモヨさんとこに行ってみるといいよ。今の時間でもやってるから。この駅前の道をずーっとまっすぐ行くと、左手にイチジって灰色のビジネスホテルがあってね……」
 おじさんが説明してくれた場所を必死で覚えながら、愛実は壁に掛かってる赤い時計を見た。
 もう十二時を回っている。
 それでもやっている店なんてあるんだろうか。
「そうだ。自転車貸してあげるからそれで行きなさい。帰りがけに返してくれればいいから。気をつけていくんだよ」
 面倒見のいいおじさんに自転車まで借りて愛実は言われたとおりの道を辿り【モモヨ文具店】を目指した。
(二十四時間営業の文具店! なにそれ!)
 愛実の心は新たな教科書を手にしたときのようにうきうきしていた。

 

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