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ショート・ショート

夢で逢いましょう<8>いつもの小道で

   

 勇気ある者のみ、美女に値する。(ドライデン)

 

「いきなり見知らぬ男性に声をかけられて、驚かれたでしょう」
「ほんとうに驚きましたわ」
「すみません。決して怪しい者じゃありません。路上で立ち話することじゃないので、コーヒー・ルームへ来て頂きました。ほんの三十分ほど、お時間を下さい。お願いします」
「話があるとか?」
「ええ。私の話を聞いて頂きたいのです。こんな話、信じてもらえないでしょうが、ほんとうの話なんです」
「話を聞かなければ、信じていいのかどうか、分かりませんわ」
「私の夢の話なんです」
「夢?」
「そうです。高校生のころから、何度も同じ夢を見るんです」
「今でも見るのですか?」
「はい」
「どんな夢です?」
「夢の中で、高校生の私は道を歩いています。ずっと続く小道を歩いているんです」
「小道?」
「どこか懐かしい感じがする小道です」
「例えば、学校へ行くときに近道する小道みたいなものかしら?」
「そう、そう、そんな小道。そこに、向こうから女子高生が歩いて来るんです」
「同級生?」
「いいえ、知らない人です。すれ違うときに声をかけようとして、でも、声をかける勇気がなくて、通り過ぎて、それで目が覚めます」
「……」
「その女子高生が、あなたにそっくりなんです。黒い瞳、長い睫毛、かわいい唇、ふっくらとした頬、みんなそっくりだ。髪だけは、女子高生らしくおさげですが」
「その話を信じろと言うの?」
「ええ。今、そこで出会ったとき、びっくりしました。あの夢は本当だったんだ、とね。夢では勇気が出なかったけれど、今度こそ声をかけなけりゃ、と思いました」
「勇気を出したのね」
「そうです。そして、今、もうひとつ勇気を出して言います」
「何かしら」
「僕と結婚して下さい」
「!」
「夢の中の女性と現実に出会えた。僕が結婚する相手は君しかいない」
「……」
「そりゃぁ、会って三十分も経っていないけれど、僕はさっき、見た瞬間に心を決めたんです。お願いです、僕と結婚して下さい」
「いいですわ」
「え?」
「イエス、です。私も小道を歩く夢を見ていました。その小道で、あなたそっくりの高校生とすれ違うの。声をかけてくれるのを、いつも、待っていたんですよ。いつも、いつも」

 

≪おわり≫

 

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