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ノンジャンル

安心旅行

   

高井 龍二は、拾った手帳に書いてある内容を使って、一流のジャーナリストと呼ばれる存在にまでなった。

だが、秘密をバラし過ぎたせいであらゆるところに敵を作ってしまい、身動きが取れなくなってしまった。

心身ともに追い詰められた主人公のもとに、ある日、旅行代理店を名乗る男が現われる。

彼は、警戒する高井に向けて、思いがけないオプションのついた旅行を提案してきた……

 

「ぬうう……」
 ワンルームマンションの一室で、高井 龍二は唸っていた。じたばたしても状況が改善されないのは分かっているが、とうに冷静でいられる段階は過ぎている。
 電話に蓄積された無数のメッセージ、郵便受けを満杯にしている手紙やハガキ。
 そのどれもが、高井の苦境を証明するものだった。
「これさえ見つけなかったらよお……」
 高井は、酒が回った頭で、目の前にある手帳を拳骨で叩いた。

 一年前、高井 龍二は、どこにでもいる、一介のフリーターに過ぎなかった。
 週のうち三、四日は、一日六時間程度のバイトをし、余った時間は遊びに使う。
 少しばかり仕事に不満を持っている、普通の若者に過ぎなかった。
 ある夜、高井は、フラフラと歩いていた。
 競馬とパチンコの勝ちに乗じ、少々飲み過ぎたようだった。
 だが、バイトは三日後まで入ってない。何時間でも寝て、酔いをゆっくりさませばいいのだ。
「これは……」
 足の赴くまま路地裏に入った高井は、一冊の手帳が落ちているのを見つけた。
 使い込まれてはいるが汚れてはおらず、持ち主が大事にしていたことが伺える。
「何が書いてあるってんだあ?」
 普段だったらそのまま通り過ぎたところだが、酔いが高井を後押しした。
 屈み込んで手帳を拾い、誰にはばかることもなく、中身を覗いていく。
「って、おいおい、こりゃあ……」
 手帳の薄いページを数枚めくるうちに、高井の体にあった酔いは完全にさめ、代わりに、震えのようなものがこみ上げてきた。
 手帳に書かれているのは、重要な情報だった。
 政治や芸能といったジャンルに、さほど興味のない高井でさえ記憶があるような政治家やタレント、そして様々な組織の責任者たちのスキャンダルが満載されていたのだ。
 記述の詳細さ、筆使いの生々しさからしても、フィクションだとはとても思えない。
 となれば、この手帳は、国を揺るがすだけの「威力」がある。つまり、普通とは違う価値がある。
「やって、みるかっ」
 高井は、酔いとは違う興奮に後押しされ、走り出した。

 

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