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ラブストーリー

奏でる愛と書き綴る愛! 2

   

 千寿とヤマトが出会ったのは3年前だった。派遣登録した職場でヤマトに出会った。

 ヤマトこと、山本 通(やまもと とおる33歳)。印税暮らしのミュージシャンが、派遣社員で働いている意味、それは驚愕だった。
 音楽制作の一環で遠回りな手法としてやっていた。見上げたプロ意識だと千寿は認めた。
 ヤマトには公表できない裏の事情があった。19歳でデビューし、すべてを手に入れ、努力を覆い隠しながら人気を蹂躙する。
 しかし、ヤマトが悲惨な人生をたどっていたことをしった。

 中学の同級生、一美(ひとみ)と同棲し、妊娠をきっかけに”デキちゃった婚”をする。第一子誕生で、娘を”音々(ねね)”と名づけた。

 一美は看護師の夢があったが、あきらめヤマトのサポートに回る。育児もしなければならない。だが、26歳までがんばっていた一美。3歳の赤子に手を焼き、ついに、そして育児放棄した。
 ヤマトが全国ツアー中、娘を実家に預けて、ホスト通いをし遊び呆けていた。一美の実家からヤマトへ電話がある。一美に叱咤する。泣いて詫びる一美は手首をカッターで切る。
 勝手に退院した一美は消えた。発見されると病院でふたたび再会する。

 一美が死亡したのだ。だが、これは次の訃報を告げる医師にとっても伏線に過ぎないことだった。ヤマトはさらに驚愕する。

”愛情”なんて不必要だ、とヤマトは思うようになった。

 

 ふたりの出会いは3年前だ。派遣社員で働いていたのは半年ばかり。それでも気の合う人間に時間は必要ではない。一瞬でわかるのだ。それがフィーリングだ。男女だけではない。男同士でも意気投合する相手がいると、多方面で活躍の機会に背中を預けることができるパートナーとして、認められるのだ。

 千寿はドラマを一本、脚本の話がきてデビューした。が、ヒットはしたもののそのあとが続かなかった。それでも執筆のエッセの仕事があった。かろうじて収入はあるものの、たまに借金をしては、まとまった金が入ったら一括で完済する。そして、また困ったときに借りる。それの繰り返し生活だ。そんなとき執筆の仕事がこなくなっていた時期が2年半前にあった。しかたなく派遣登録し、一般企業で事務の仕事に在りついた。安定した収入が数ヶ月確保できることに安堵した。
 生活の足しに派遣社員で勤めたが、そこにヤマトが本名で一般人といっしょに働いていたのを知った。やはりおなじ業界にいる人間だからわかる空気のようなものを感じていた。
 本名:山本 通(やまもと とおる)32歳。千寿の一年先輩であるが、まさかお忍びでこんなところで出会うとは誰も予測できないだろう。
「ヤマトさんじゃ?」千寿は思いきって声をかけた。
 するとヤマトは千寿を外に呼び、昼を共に食べた。
「内緒な、飯おごるからよ」
 社内食堂のヒレカツ定食、1000円を食べさせてくれた。ひさしぶりの贅沢な食事に感極まるところだった。
「ありがとうございます。うれしいです」
 髪の毛の色が黒色になっているから余計にわからない。黒縁のダテ眼鏡で、白いヨレヨレのワイシャツにブルージーンズにアディダスのスニーカーだ。ドレスコードが緩い職場環境であったため、一般人の服装にまぎれてしまうとまったく遜色なくわからないものだ。
「変装はお手の物ですね」千寿はいった。
「慣れた感じするでしょ。じっさいそう。もう何度もこうやって渡り歩いている」ヤマトは堂々といった。
「なんでこんなことを、生活に困っているわけでもないでしょ?」
 もっともな疑問を投げかけた。億万長者なはずだ。印税暮らしが、地道に時給制で淡々と働く意味になにがあるっていうのか。
「たまに音楽に煮詰まると、気晴らしに社会に出て、体感をそのまま作品に投影することがある。これも制作活動のひとつ。俺くらいかな」
 変わっている。そんな手法を取り入れているのがおもしろい。だから人気があるのだろう。もっとも芸能人のオーラのようなものを隠し通せるとは思えない。
「バレてないのですか?」
「バレたことある。でもくち止めするし、それにいろいろ方法がある。言いわけのな」
 それをきいて、すごいな、とおもった。
「本物だ」
 ひとつの生み出す作品に手段を模索しながら作っているのがわかる。
 だが、いまは普通に派遣社員として、この事務の仕事をしている。それも本気で取り組んでいる。その姿勢は生真面目な新卒上がりの社員のような姿だ。
 そして一般人の話を直にきいて、リアルタイムの声を活かしている。顕著に作品にでているのが作詞だった。実体験をもとに書いている、と記事に載っていたのを思い出した。
「そういうことか、だからファンは共感する。そういうことですね」
 千寿は関心した。
「なら、俺も自分の体験を作品にしたい」
 そう思うようになり、正直に空想や想像だけではなく、直に感じた率直な感性から現代社会を題材にしたものを書く方向へ変えた。

 

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