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ラブストーリー

奏でる愛と書き綴る愛! 完

   

 小学3年の音々(ねね)は、ひきこもる父に近寄る。「パパ、おしごとは?」
 気力も失ったヤマト、もう仕事をする気がない。孤独に打ちひしがれ、なにもする気がない。希望もない。仲間がいてのヤマトだった。
 娘は父の身を案じて、母一美から唯一教え覚えていたことをいう。
「つかれたときは、眠ると元気でる」
 父は微笑み、娘だけが理解者だった。

 ヤマトの人気はたしかなものだった。だが、その人気を利用していたのは周囲の制作者と、バンドメンバーだった。
 あきれ果てた周囲に、憤ってしまったヤマト。自業自得な態度だが、八つ当たりしたことで、独立を考えていたメンバー、遠ざかっていくスタッフに見放された。
 もはや、音楽を活かせる場がない。

 音々が父のバッグを漁った。すると携帯電話が震える音が鳴っていることに気づいた。
「おしごとかも」と娘が父に手渡す。
 ヤマトは目の色を変えた。そして、ヤマトも忘れていた。一番大切な仲間を。心に火が灯り、熱意がこみ上げてくる。
 孤立ではないことを知り、奮起するヤマト。

 千寿は新宿にいた。高層ビル30階の高級BARでヤマトと待ち合わせていた。
 再会のグラスを交わす。
 ヤマトは奮起するために、力を貸してほしいと懇願。音楽を奏でることが自分の生き方だからだと。
 千寿をみて、仲間でありライバルであるからの頼みだとわかった。
 千寿も共に書き綴るものがあるからくじけず奮起している。
 それはたがいに共通の抱いているものがある。”愛”だ。
 ヤマトがそれに気づいたとき、ある手紙をみつけた。生前、一美からの手紙だった。そこに秘められた想いをヤマトではなく、夫、”通”として受けとめた。

 千寿はその手紙を読んで、衝撃な事実が書かれていることに、ゾッとしていた。

 仕事と愛は、どちらが欠けても、本当に守りたいものにはならない。それに気づく二人の男は、新たな物語の主人公として飛躍する決意を交わす。

 

 小学3年の音々(ねね)は、ずっと部屋でひきこもっている父をみてたずねる。
「パパ、おしごとは?」
 山本 通はうつろな目で覇気もなく、娘を抱き上げるだけの力すらなかった。「うん、ちょっと休みだ」
「どうして?」
 以前の山本はいつもいない。朝から晩まで働くような男だった。そんな父が日中毎日いるものだから不思議に思い好奇心からの質問だった。
「しかたがないんだ。希望を見失ってしまった。もう立ち上がれない。パパからみんな遠ざかっていった。仕事の仲間がね」
 娘に理解できるかはわからなかった。だが、山本は正直に嘘偽りなく答えた。やはり音々には難しいようだ。だが、父の表情からみて、負の色合いが放っていることはわかった。
「パパおつかれ? やすむ?」
 娘は寝室で眠りにつくことを示していた。そうすれば元気になると、音々は思っている。それは故、一美が娘にいつも語っていたことだ。
「つかれたときは、眠れば元気になるものだから、寝ましょ」
 一美が音々にいっていた言葉が印象として記憶に残っていた。それは一美からの唯一の教示だった。
「だいじょうぶだよ」
 山本は完全に有名な音楽家の顔ではなかった。寡男で、仕事仲間を失った孤独な人間である。娘だけが唯一の理解者となった。音楽をしたくても活かせる場もない。

 ヤマトとして音楽プロデューサーになりあがったが、けっきょく踊らされていただけだった。ギターリスト、ベーシスト、ドラマー、ほかの助っ人メンバーやスタジオスタッフ。大手レコード会社に所属し、その事務所でも居場所がなくなった。未来の可能性があるミュージシャンだ、と事務所側は必死に奮起させようとしている。しかし、バンド仲間が独立したいと申し出て、けっきょく解散に追い込まれてしまった。こんなバカなことってない。これまで数多くの仕事、収入をまわしてやりくりしていったというのに、まるで自滅を選んだのではないか、とメンバーを見損なっていた。
 そのせいで、事務所側の担当やスタッフは協力者に八つ当たりしてしまった。こういうとき酒に逃げ込む傾向があるのは本当らしい。ヤマトもやけをおこしていた。それでも事務所側はあきらめようとしなかったが、どうにも鼓舞するきっかけがなかった。もう尽力者も、精魂尽きるほどの思いが切れてしまった。そしてついに見限った。
 でもどれだけ力があっても、孤立したらそれは弱者に摩り替わる。
 弱者が結束したらそれは新たな可能性の種を植えることになる。みんなで水を交代で与え観察して育てる。こういう団結力には、独裁者は太刀打ちできない。
 それより、ヤマトは今まで孤独を感じたことがなかった。常に誰かしら周囲にはいた。妻であった一美はもちろんのことだが、バンドメンバーや音楽制作のスタッフ。事務所関係者。みんな仲間だった。
”失った”と思った瞬間、自暴自棄に陥る。そして、携帯電話は開くことのないバッグのなかにしまいっぱなしだった。

 

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