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恋愛 / ラブ・ストーリー

奏でる愛と書き綴る愛! 完

   2015年3月27日  

 あるとき、音々が父のバッグから音が鳴っていることに気づいた。ブルブルと震えるような振動音だ。こそっと開けてみる。仕事用のバッグだから触れることを許されなかった。でもずいぶんとこのバッグに父が触れていない。代わりに開き状態を確認した。またしても好奇心からだ。
 点滅している小さな機械に気づいた。大事そうに小さなその両手で、そっと取り出すと、いつも見ていたものだ。父にとっては大事なものだ。なにかしろのアクションがあるからそれは稼動していた。呆けている父に届ける。
「はい、おしごとかも」
 娘は父の眼前に押し付けるようにみせた。
「ああ、そうか」
 通は携帯電話の存在を忘れていた。周囲から裏切られたことに、もう自分は不必要な存在。仕事をする意欲がなくなった。
 娘の世話は、実家から通の母がきて面倒や世話をみてくれた。貯金はかなりある。だからこれだけ廃人のようなものが主でも小さな娘は健やかに育っている。

 携帯電話のバッテリーが残り10%になっていた。「充電しなきゃ!」父の目の色が変わったことに音々は驚いた。
 奮起するように立ち上がり、携帯電話に充電コードを挿しながら、画面をみていた。メールチェックと着信履歴だ。
「そうだ、おれにはまだこいつが!」
 忘れかけていた心に火が灯す。メールを打ち込む。その文面をめずらしく何度も読み返しては書き直し、修正していた。一時間はそのメールにのめりこんでいた。その間に充電も完了していた。が、それに気づかず、よし、とうなずき、納得いく文章が書きあがったのだろう。そのまま送信した。
 深いため息をひとつ吐きながら、充電コードを抜いた。
「音々、ありがとうな」父の表情は優しく、それでいて血がかよっている赤みが広がっていた。
「パパ、どうしたの? わからないけどよかったの?」よくわからない音々は、とりあえずうれしそうにいった。
「ああ、でかしたよ。パパはまだ孤独ではない。そうだった、おまえもいたんだ。一番の大事な存在をわかっているのに気づいていなかった。放棄していた。あってはならないことなのに。それと一番の友がいたことを忘れていた。あいつとまた仕事がしたくなった。やっていいと思うか?」
 娘にたずねる必要もないのに、同意を求めていた。
「いいよ。パパがそうしたいなら、ネネはだいじょうぶ。おばあちゃんもいるよ」
 音々の微笑みを久しぶりにみた気がしている父は、ついに奮起する。
「あいつに会わないと」

 

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奏でる愛と書き綴る愛!<全4話> 第1話第2話第3話第4話

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