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歴史・時代

ハヤブサ王 第3章 〜皇女たちの憂鬱(5)

   

 人柱の儀式前日、荒々しくイワノヒメを抱く大王。
(男って、本当は弱い生き物なのね。女がいなければ、どうにもできない生き物なのね)
 大王の孤独を知ったイワノヒメは、満身の愛情を込めて体を開いた。
 翌日、儀式に出てきた人柱を見て、イワノヒメは息を呑む。それは、十年前に別れたワケノミだった。
 神と大王という巨大な権力に挑んだワケノミコ。彼の生死はいかに…!?

 

 集められた人柱の候補者を見て、豪族たちからどよめきが起こった。それもそのはず。貧しい身なりをした男たちの中に、一際目立つ貴人服を着た少年が座っていたからである。周囲の男たちも、その少年に一種異様なものを感じていた。
「ワケノミコさまだ。丸邇(ワニ)氏の出した人柱はワケノミコさまだ」
 族長たちは、丸邇氏の族長ヒレフノオオミとワケノミコを交互に見ながら囁きあった。
「どういうことだ? 皇子さまを人柱に出すとは?」
「なに、大王さまに忠誠心を見せたいのだろう」
「皇子さまを使ってまでして中央政権に帰りたいのか? 名門丸邇氏も落ちたものだ」
 族長たちは忍び笑いを零した。
「だが、皇子さまを人柱にするわけにいかんぞ。仮にも、大王さまの異母弟君にあらせられる」
「ワケノミコさまが人柱になられると知ったら、大王がどれほどご立腹されるか。人柱を選んだ我々にまでとばっちりが及ぶかもしれん」
「もしかして、オオミはそのつもりではないのか? わしらを巻き添えにするつもりでは?」
「まあ、どちらでもいい。皇子さまが当たりを引かなければいいのだから」
 族長たちはくじに細工をした。簡単な方法である。ワケノミコに最初にくじを引かせる。そのあとに、当たりのくじを入れるのである。
 これによって、人柱は武蔵(現東京・埼玉一帯)のコワクビと河内(現大坂東部)の茨田連(マンタノムラジ)のコロモノコの二人に決まった。
 ワケノミコは、いささか不満な顔をしていたが、くじで決まったことなので特に意見はしなかった。
 ヒレフノオオミも、くじならば仕方がない、ワケノミコさまを人柱として出したということだけでも、大王に忠誠心を示したことになろうと思った。
 人柱決定の件は、すぐさま大王に報告された。が、丸邇氏がワケノミコを人柱として出したことは報告されなかった。族長たちが、故意に報告を省いたわけである。これによって、ヒレフノオオミの思惑は大きく外れたことになる。

 

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