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ノンジャンル

ユキさんのいた図書室

   

過疎化が進む山奥の村、原砂見。

敏夫は、その村の中学に通っていたが、向学心と、日々あつれきが増していく現実から逃避するため、廃校になった高校の図書室に通い、本を読みふける日々を送っていた。

いつものように図書室に足を踏み入れた敏夫は、本を読む姿がとても絵になる、見知らぬ少女と出会う。

彼女が村の人間ではないことは明らかだったが、雰囲気と美貌に惹かれ、敏夫は次第に、そのユキと名乗る女の子と仲良くなっていく。

ユキが薦めてくれる本はどれも面白く、気がつくと敏夫は、大人たち以上に原砂見のことに詳しくなったりしてもいたのだが……

 

「そんじゃなあ、敏」
「おう、またな」
「明日は遅刻すんなよ。木島の奴、町でまたふられたらしいかんな。的にされるのはかわなんぞ」
「ああ、そうだな」
 もう百年も使われているような校舎に、耳慣れた声が響く。
 知らない者は誰もいない。
 全校生徒が二十人足らず、教職員を入れても四十人には満たないというのが、僕が通う中学の全貌だ。
 気兼ねはしなくていいから楽と言えば楽だが、よその人間が入ってくる余地はない。
 もっとも、わざわざここに入って来ようって物好きもいないだろうが。
 僕が住む原砂見は、平たく言うなら「適度な山奥」だ。
 人は少ないが、小島のように漁業の活気はなく、登山家や探検家の興味を惹くほど峻厳でもない。
 だからここは人の出入りがほとんどなく、皆静かに、息を潜めるようにして暮らしている。
 些細なことでも隠し通すのは難しいし、ましてや事件にでもなったら瞬時に情報は伝わってしまう。
 だから、目立つ行動を取る人はもちろん、周りから極端に外れた時間に寝起きする人もいない。
 村の人たちがパソコンを持つようになっても、中学の制服が学ランとセーラー服からブレザーに変わっても、根っこのところは多分、僕のおじいちゃんが生まれた頃とまったく変わっていない。
 そんな中にあって、僕は一つ、変わったことをしていた。
 同級生たちと別れて友達の家に遊びにいくフリをして、もう使われなくなった脇道に進んでいく。
 元々未舗装の道路が、人が入らなくなったためにさらに荒れ、石や土の塊がごろごろするような悪路と化した細い道を、ゆっくりと進んでいく。
 つまづいて転んでも大声は出せない。
 盗みを働いているわけじゃないけど、他の人に知られたら、多分まずい。

 

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