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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

金にまみれる男 1

   

 籤稿 渇次(くじわら かつじ 35歳)、周囲からクズ呼ばわりされている。
 生活苦なくせに仕事が嫌いで、それでいて夢ばかり追いかけている。作家志望だ。
 まじめだが小説のアイデアが浮かぶとひきこもるため定職の仕事を放棄する癖をもつ。
 大手インターネット通販の会員。クレジットで借入を繰り返す。ショッピングを利用して、高額な品を購入。それを転売し現金を得る。返済は後払いだから、月々の支払いも少なくすむため、それまでに再び定職を探し収入を得ようとする。これが打開策の妙案。

 これが転機となる。そして、これまで彼女が一度もできなかった籤稿。
 仕事もみつかり、返済もできるようになって、執筆活動にも時間がとれる。
 付入る隙が籤稿にはあった。「余裕」と思った心の隙だ。

”BAR・KING”。この店が奈落への序曲のはじまりだった。
 一人の女性と出会ったことで籤稿は更なる妙案を絞りだす。

 

 籤稿 渇次(くじわら かつじ 35歳)は、まじめな性格で几帳面、それで夢をひたすら諦めることもせずにがんばっている男だ。が、その”夢”のために安定した生活は崩壊寸前にまできていた。借金苦、仕事が定着しない。そして働くのが嫌いで、他人と共有する心の余地がない。だから、この歳まで恋人ができたことがない。
 人はみな、彼のことをこう呼ぶだけの関心しかない。
”あのクズなんてどうでもよくねぇ?”。
 そのクズを相手にする友人知人なんて、縫い針の糸を通す穴よりも小さい。だが、その隙間のある穴ほどの存在は、この地上で呼吸することを許されている。自宅の六畳ほどのスペースが籤稿の世界のすべてだ。

 夢は作家だ。たいして賞もとれず、売れない作家をしている。アイデアが思いついてしまったが最後、作業に追われる時間のため、それでも定着していた仕事を忽然と辞めてしまうのだ。毎日一生懸命、遅刻も欠勤もなく誠実に勤めていたが唐突に消失する。いきなりのため会社の担当は唐突過ぎて困惑している。しかし、一度でもこうと決めたら籤稿は頑なに譲らない。一番は夢だからだ。夢が生き甲斐であるから、生活のための仕事なんてものに執着はない。夢の仕事を達成させるために生きている。その邪魔をするのはたとえ社会のルールですら断絶してみせるほどの威勢がある。

 アイデアが浮かび、完成するまでに三ヶ月から半年はかかる。これはあくまで急いでもそのくらいは集中して世間に障壁を張った状態の精神で、書きすすめるということでの期間だ。もっともたまには、適当に日雇いでの労働し、必要な生活のための分は稼いでくる。

 売れない作家の困窮生活なんてこんなものだ。他人に迷惑かけてこそ将来の目標を手繰り寄せている。幸福な人生、ゆとりある生活をしている者たちとはちがう生き方に、共感される人生観ではないと指摘されてもしかたがない。
 渦巻くゆがみのある世界で生きているのが籤稿だ。

 最初の気持ちと今とでは、多少心情に変化がある。この歳ともなると、やはり生活が苦しいためか、精神のゆとりを得られず、なんの確保もできなまま、崖から身投げしている自分像が脳裏に浮かぶ。たまにそんなシーンの夢でうなされることもある。
 じっとりと汗で湿った枕がその証拠だ。もはや、作家がどうとか、そんなこといってられなくなってくるのを実感しはじめていたことを思い知らされる。

 作家志望なんて成功していなければインドア派、といえばきこえはいいがじっさいのところ口をそろえて指摘されるのは、ひきこもりのニートだ。
 だが否定はできない。ほとんどの連中が、そういう傾向の流れがあるといっていいが、インターネットを多用する時間が一日のスケジュールを埋めてしまう。
 籤稿もおなじだった。というのも作品の知識などを調査や参考資料として現地に赴くこと、本屋や図書館などに足を運ぶ時間を惜しむ意味で活用していた。
 短縮するためには充実している現代品に感謝だ。

 籤稿は大手インターネット通販の会員になっていた。提携しているクレジットカードも手にしている。生活雑貨やファッションやブックなどもネットショッピングで購入していた。通信販売が楽しめる総合ショッピングモール。これが生活の基軸になっていた。
 ネットショッピングは効率がよく、買い物はすべて利用している。時間短縮につながるから実にいい。もっとも気にいった商品はかなり良い物ではあるし、見劣りしないものばかりで、ブランド物も販売されている。わざわざ時間と交通費をかけて店舗までおもむく必要はない。その時間を作家として小説を書く時間に使えるのが便利で助かる。すべてが循環良く回っている。なんといっても収入面以外という意味で、後払いシステムの魅力にとりつかれていた。

 作品を書き終わると通帳をかならずみる。銀行へ行って記帳をするのに緊張している。それとあわせて財布のなかをのぞく。するとどうだ、「やべー、月末なのに残金一万弱しかない」というのがいつものことだ。声にだして漏らすが、わかりきっていた現実だ。
 月末ということは、一人暮らしには家賃が払えないことになる。五万円用意だてて、食費がなくなってしまう。急造の仕事を明日にでもしないと。
 それですぐに探す。しかし、家賃は今日じゅうに振り込まなければならない。
 終わりだ。

 

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