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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

金にまみれる男 3

   

 年下の彼女の要求にすべて応じようとする籤稿。欲しいとねだるバッグをプレゼントする習慣が二人の関係性を維持している。
 籤稿はこの図式の恋愛をどうにか壊したいが、そうもいかない。踏子は、籤稿が余裕ある大人な暮らしをしている。そうイメージを持っていた。
 だが、貧困生活で自分ひとりで生きていくのならどうにかなる。
 生活の建て直し中の身だったくせに他人に与えることなどあってはならない状況。
 仕事をしていくことで切り詰めた私生活に多少のゆとりができただけで、高価な品を購入することなどできはしない。ましてやプレゼントなんて夢のまた夢な出来事のはず。

 しかし、籤稿は身を削るようにして現金を作ろうとする。だが、どう考えてもその金を用意することができない。だとしても正直に踏子に伝えることができない。大人という見栄を張ってしまう。そんないい大人のくせに惨めな暮らしをしられないためにか、現状のレベルを下げることができないのだ。

 そこに幸か不幸か、天の恵みがATM機の画面には表示された。驚愕な事実が飛び込んでくる。
 しかし、この判断が失敗となる。取り返しのつかない状況に気づかない籤稿は、最後の砦と思い浮かべるのは、”SHADOW BRAIN・HIKAGE”だった。ここでどんな決断をするかで、籤稿の人生を大きく左右させることになる。

 

 さらに籤稿は途方に暮れた。買取の専門店、緋影のところでも品を買い取ってもらえなかった。焦る。もう金の出どころがない。
 籤稿が給与からの分と貯蓄分と借入できる取引先の枠分をかき集めてできる札束の山は残りわずかとなった。すべて、交際している踏子との費用のせいだ。
「カツジさん」踏子は一回り年上の籤稿をそう呼ぶ。「新商品のヴィトンのバッグが出たの。欲しい」
「そ、そうか。なるほど。それはいいかもね。あはっ、あははは」顔は笑っていない。心は泣いている。それがいつもの籤稿だ。
 踏子と初めて会ったときの彼女のファッションはピンクのミニスカート、黒いハイカットのブーツ、ロゴのあるTシャツの上にデニムのブルゾンという格好だった。それはいまだに変わらない彼女のファッションでもある。大学生が抜けきれていないような雰囲気が残り香のように漂っている。社会人一年目ということもあるせいか、良く言えばフレッシュさがある。悪くいうとまだまだ幼い。
 しかし、バッグやコート、アクセサリーは社会人一年目としては高価な物を身につけている。COACHやルイヴィトン。サマンサタバサ。どれもこれもが籤稿がプレゼントしたものだ。
 彼女の同年代なんてのは、ほとんどがユニクロで、ワンポイントに高価な品を身につけているというのが良識として通じている。踏子だけは貢がせるだけの男がいる。その差が現れていた。

「きょうのファッションもかわいいね。似合ってるよ」籤稿がそういうと、踏子がよろこび溢れるほどの笑顔をみせる。
「キャッ! うれしいな」
 踏子の同年代からみたら、頭のネジがちょっとゆるいと思われる印象だろう。
 ブリッ子キャラが全面にでている。すでに甘え上手な小娘だ。しかし、籤稿はこの関係性を甘んじて受けいれている。それがお気に入りなのだ。見返りがある分、私生活を犠牲にしている情けない大人でもある。
 籤稿は街中でデートしているときに、視界にはいる看板に期待を込めていた。
「どうしたの? 遠くばかりみて」踏子の怪訝そうな顔に打ち明けることができない。
「いやぜんぜん、なんか面白そうな店あるかみてた。喫茶店でもいこうか?」
「うん、いいよ」
 金銭に余裕がないことをいい大人が伝えることのできない脆弱さに腹がたっていた。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

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