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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

金にまみれる男 4

   

 途方に暮れている籤稿。そして愛する踏子に一通のメールを送る。すると電話がかかってきた。
 しばらく会えないとメールをしたからだ。理由がどうしても腑に落ちずに踏子は催促の電話をかけた。まだ納得はいかず、踏子は籤稿の自宅に押しかける。それだけ愛してくれていることに歓喜している、そして救いの手を差し伸ばすのだ。
 ほぼ無一文の籤稿に飲食の差し入れをしてくれた。生きながらえる命を持ってきてくれた。なによりその思いやる愛情に救われたのだ。孤独ではない実感。これほどの幸福さを感じたことはない。
 と思っていた矢先に、踏子は鋭い目つきで籤稿をみる。そして衝撃のひと言をいった。
 籤稿が後ろめたいほどの真実を察したのか問いつめてきた。バーキングの経営者、武条の名が出た。
 しかも、踏子とあまりにも衝撃な接点のため糾弾した。だが、出会った場所がそのバーキングだったため、予測はできたはずだ。そう浮かばなかったのは恋愛経験ゼロの籤稿が未熟すぎたコミュニケーション力だったかもしれない。

 そして踏子の決断は、籤稿を苦悩させるものだった。

 

「金を借りたい?」武条は目を輝かせていた。
「ええ、お願いします」籤稿は頭を抱えるように話す。
「200万円すでに借りてます」近くにいた舎弟が籤稿の聴こえるように借入状況を耳打ちする。
「それは、いつのまにか上限が200万円になってたから、不本意なんですよ」籤稿の言い訳が通じるはずもない。
 しかし、これより以前に、200万円を引き出したときからマークがついていた。武条も監視しているくらい警戒していた。
「よーし、ならお前はなにをさしだす? もちろん、その金額に見合うだけのものだよな?」
「いえ、そういうのではなく。金融会社ってなにかさしださないといけないんですか?」
 籤稿はそんな疑問をたずねることは不要のはずだが、あえていう。それが裏目になろうともしらずに。
「普通、審査が通るか、通らないかであって、交換所なわけではないですよね? 質屋じゃないんだから」
 勝手に上限を本人の同意なしに上げたことは違法である。明示書、契約書、それを上限をあげたときの誓約書に同意し捺印しなければ成立しない。
 籤稿は、武条の術中にはまっていることをしらない。だが、借りてしまったことは不本意であってもそれは許されない。籤稿の落ち度はそこにある。

 武条はニヤけた顔で近寄る。「そうじゃないやろ。いいか、物事のやりとりには様々な駆け引きってものがある。それが金銭の場合、なんら保証がないならそれにつりあうだけの担保ってものがある。それが金を借りる側の誠意やないか?」
 そういうことは理解していた籤稿だった。
「ならなにを?」
「たとえば、おまえさんの内臓とかな」
「はっ?」籤稿の顔が引きつった。「なにをバカなことを…」
「なにがバカだ。だれにむかっていってんだ?」
 禍々しいほどのオーラが武条の背後からメラメラとたぎっていた。
「そうじゃないでしょ。名前、住所…を書いた書面と身分証、ぼくは免許証を提示しますから…」籤稿は訂正していた。
「それなら売名だな」武条は周囲にいる弟分に命令した。
「こいつの名前で偽造パスポート、偽造免許証、偽造その他の証明書を作成しろ、新宿あたりで売ってこい!」
「ちょっとそういうことではないでしょ、普通の金融会社ってそういうことしないでしょ」
「普通じゃないから、ここ、ダークマネーカンパニー、とでもいうのか。裏金融会社…、わけありのおまえのような表の金融会社では借りられない社会のゴミ屑のようなやつらが訪問する場所…」武条は冷徹な目で見下すように、籤稿をみていた。

 

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