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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

金にまみれる男 5

   

 籤稿と踏子は意を決してこれまでの高価な物品を買い取りするため、”SHADOW BRAIN・HIKAGE“へ出向く。
 13点もの物品を30万円で買取を承諾。これが最後の現金となる。
 緋影には、とてもよい判断をされている、といった。それは、金を選んだ判断ではなく、愛のためにふたりの幸福を選んだ。

 緋影の真の能力は、鑑定する持ち主の品を、首からさげているネックレスのトップペンダントのウレキサイトの石に触れると、その客の事情を見透かしてしまう。
 これを”ハートスキャン”と呼ぶことにした。
 そして、ふたりの未来に祝辞を捧げるために、ひとつチャンスを与えることを緋影は話しきかせる。
 が、そのまえに武条の名が出たとき、緋影の顔色が変わった。

 物語は中盤。多くの人間が金か、欲か、愛か、どれをいちばんに掴むことで幸福になれるか、籤稿に緋影が助言する。そしてひとつのチャンスを与える。その見返りに不安を取り除くことを約束する。

 

 籤稿と踏子は池袋にいた。体を動かしづらいほど、歩行もままならないほどに、両手はふさがり大量の品を持っていた。
 息を切らせながら、やっとの思いで”SHADOW BRAIN・HIKAGE“、の店の前に着いた。

「ここ?」踏子がたしかめた。
「ああ、そうだ。俺が金に困っているのをしりながらも、踏子のためにプレゼントしたくてなんとかしようとしていたのに、ここの鑑定士さんは俺の私生活に影が差しているから、本来の値のつくロレックスが15万円しか出せないと私情を挟んだ。お節介にもな。だからこのひとなら信用できる。俺たちのことを救ってくれるアドバイザーのはずだ」
 踏子は籤稿をみつめる。「そう…、わかったわ」
 ふたりは入店した。

 最後の砦の前に立つ。ついに扉に、手のひらをあてている籤稿。こじ開けるためのちからが足りずに、深呼吸をすることで決意に変えていた。
「がんばって」踏子が後ろから支えてくれている。これだけでじゅうぶん前進できる力になっていることに気づいた。
「サンキュー」
 意を決する籤稿のその手はちからをいれずに、ゆっくりと前へと押し出された。
「いらっしゃい。待ってましたよ」
 扉を開けたのは店主の緋影だった。招き入れるように身をよけてなかへ通した。
「あ、あぁ…」声にならない籤稿は、顔を背けるように視線をはずす。
「このあいだもいらしていたのに、立ち寄っていかれなかった。お察しします。あなたの置かれている現状に」
 籤稿は、相変わらず見透かされている緋影の他人の心を読み解く能力に恐れ入った。
「まいったな。ほんとうに」籤稿は背後にいる踏子に囁く「なっ、このひとすげーだろ」
 目を丸くさせている踏子だった。「ほんとね」
「こちらへ」
 緋影がそういうと、来客ふたりを奥の鑑定室へ通し対面の状態ですわる。
「きょうは彼女さんと一緒ですか」緋影がいった。
「ええ」籤稿は照れくさそうな顔をする。
 無言の彼女をみつめる緋影。
「ほう、これはこれは思っていたいじょうに素敵な女性ではないですか。とくにあなたのことをたいせつに思っている心がすばらしい」緋影はさっそく初対面の踏子の心を見透かしていた。
 踏子はうつむいていた。籤稿も察していた。その証拠に緋影はウレキサイトの石をさわりながら話している。だが、これはただ単に、女性へのおべんちゃらな発言だった。
「もういいから。まだなにも話してないよ。話しをさせてくれるかな」
「そうでしたね。すみません」緋影はちょっとばかし焦っていた。事情というところの本音までは探れないが、どういうわけかどす黒い暗雲が籤稿の心のなかに広がっているのを感じとっていた。
 これは見透かす心ではなく、籤稿の表情から読み取っていた。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

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