幻創文芸文庫 (β)

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ショート・ショート

画期的な目覚まし

   

まだ経験が浅く、仕事でも結果が残せていなかった若者は、些細な遅刻を理由に、社長に感情のはけ口として叱り飛ばされ、研究チームからも外されてしまう。

社長から「目覚まし時計の特許でも取ってみろ」と皮肉を飛ばされたことで発奮し、いっそのこと新しい目覚まし時計を開発してやろうと意気込む若者だったが、元々の仕組みが単純なこともあり、かえって新機軸の発明を生み出すことは難しかった。

だが若者は、偶然見た夢をきっかけに、新たな目覚ましを作ることができ……?

 

「なっとらん! まったくなっとらん!」
 ぽかぽかした春の陽気と、花の香りに満ちた外気を切り裂くような、初老の男の怒声が響いた。
 すると、若者は肩をびくりと震わせて縮こまる。
 社長に怒られている平社員としては、ごくありがちな態度と言えるだろう。
「も、申し訳ありません……」
 若者はうつむいたまま応じたが、特大の座椅子に巨体を預け、ふんぞり返っている社長は矛を収める気配はない。
 赤ら顔をさらに充血させ、いっそう声を張り上げる。
「いいや、お前は反省してない。真に反省しているのであれば、こう何度も同じミスを繰り返すはずがない。出勤時間に遅刻するという、社会人にとってあるまじき行為をするなど!」
「ひいい……っ」
 小動物のように気弱な若者はついに悲鳴を漏らしたが、遠巻きに見ている先輩社員たちは、誰も助け舟を出そうとはしない。
 社長の機嫌を損ねたくないからだ。それに、自分たちにも心当たりがないわけではない。
 何しろ、若者が怒鳴り散らされている原因は、たった三分の遅刻なのである。
 この程度のことにエネルギーを使うなど、本来はまったくの無駄でしかないはずだ。
 だが、別れた不倫相手とヨリを戻そうとして散々にやり込められた挙句、気分転換に入った床屋でメチャクチャな髪型にされてしまった社長は、いっそうテンションを上げて若者を叱り倒していく。
「お前が使えないのは良く分かった。ひどいミスをやらかす危険性が高いこともな。よって、お前は第一線、一斑の研究からは外れて貰う。当面の間は見学に徹しろ。いいな!」
「しっ、しかし社長、それでは給料が得られません。完全成果主義の状況下でまったく仕事ができないのでは、どうしようも……」
「やかましいわ! ともかくお前に仕事はさせん! 契約期間が残ってる間はクビにもせん! 贅沢がしたかったら、目覚まし時計の特許の一つでも取ってくるんだな!」
 机をバシバシと叩きながら怒鳴り声を上げ、社長はオフィスから出て行った。
 恐らく、昨日会った浮気相手に電話でもするか、新しいガールフレンドを探しに行ったのだろう。
 収入と社会的地位にものを言わせるのは目に見えていた。
 そんなことをしても、長年の運動不足と不摂生のために、弱々しくなった上に脂肪だけは蓄えた肉体が変わるわけではないのだが。

 

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