幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ラブストーリー

Rain of you

   

雨の日に君と出会った。
美羽と文哉、二人の出会い。

純愛の物語。

 

ずっと渇望していた。

無理だと諦めていたそれは、突然私の目の前に現われた。

離さないで。

掴まえていて。

禁じられた恋だと分かっていた。

けれども、私の心がそれを求める。

□□rain of you□□

「何ですって?」

分厚いガラスを利用しているはずの車内に聞こえて来た、知らない女性の声に私は我に返る。

外は雨。

朝から降り出した霧雨は、依然やむ気配を見せず、初夏の鎌倉を霞んだ色彩に染めている。下校途中にたまたま信号で止まった車の中から不審に思い外を見ると、海に面した国道沿いの歩道に円を囲むように出来た人垣が見えた──雨とは言え、白昼堂々に起きているらしい騒ぎにミラーを通して何事かと運転手に首を傾げて見せると、初老の彼もまた穏和な微笑みを浮かべて首を捻る。

「待ち合わせに遅れて来たと思えば今日は無理?デートをドタキャンするなんて本当に最低!」

何やら先ほど私が聞いた声は、その輪の中心からするらしい。罵詈雑言を並び立てて怒鳴り散らしている女の声に重なる様に、比較的若い男の生意気そうな声が聞こえた。

「だあからさ?今日は無理って言ってるだけじゃん」

どうやら会話の内容から察するに、痴情のもつれのようだけど。

確かに恋人とは言え赤の他人同士なのだから、意見の食い違いや個々の主義主張はあるだろうけど、口論を道の真ん中ですると言う事で自分たちが見世物になっている事になぜ気付かないのかしら。
声の艶やトーンからして、諍いをしているのはまだ若いカップルのようだけれど、分別の付く大人がする事ではないから当然と言えば当然。余所でやれば良いものを──と、私は物珍しそうにその光景を眺めている人々を見限って低く響くエンジン音に身を任せて溜め息を吐く。

それと同時に、過度の期待をするからよ、と私は彼氏をなじった女性に心の中で呼び掛けた。

私は小学校に上がる前は、こう見えて結構泣き虫だったのだと、以前我が家に長いこと勤めている老執事に聞いた事がある。

今ではぼんやりとしか自分では思い出せないけれど、小学校に上がってからも低学年の頃は頻繁に、孤独な夜に疲れて眠るまでべそをかいていたらしい。私は両親の愛情を知らずに育ったーーいいえ。両親は共に仕事や付き合いが忙しく、常に家を開けてはいたけれど、私に買い与えるものや家に雇う召使いの数を渋ったりと言う事は一度もない。

でも子供は馬鹿だから、両親がものを与えてくれることで愛情を示していてくれていたのを知らなかった。それは私が求めていたものが、高価な玩具や安定した生活ではなく、眠れない時に側に居てくれる温もりであった証拠だろう。
子供にとって夜の暗闇はまるで死の世界へと繋がっているかのように想像力を煽り、静まり返る広い家の静寂がより一層、幼い私を神経質にさせた。

台風が窓を揺らせば自然の脅威におののき、雨が降ればそれがまるで誰かの足音の様に聞こえて眠れない。今でこそ笑って話せる話ではあるけれど、乳飲み子を卒業したばかりの私には夜になると訪れる恐怖は深刻な悩みだった。

だが今となっては私は、そんな両親に育ててくれた恩を感じこそすれ、責めるつもりはないし関係も上手く行っている。勉強でも運動でも、優秀な成績を残す私を両親も誇りに思ってくれている。ただ、そんな両親の唯一の失策は誰かから愛情を受けてもどう反応して良いのか分からない子供に私を育てた事か。

愛し方が分からないの。
だから私は、恋愛には奥手。

例え人に好意を向けられたとしても、返し方が分からない。なのに私は自分が子供の頃に得られなかった愛情を人一倍求め餓えていることも自覚していた。

愛されたい。
愛されたい。

だけど失う怖さを知っているから期待はしない。
一瞬だけの泡沫なんて私はいらない。

その時。

「そんなに抱いてほしけりゃ他の男、引っ掛けな」

繰り返し吐かれる女性の罵詈雑言に耐え兼ねたのか、男の方の発した鋭い言葉に場の雰囲気が一気に緊張を帯びた。

 

-ラブストーリー


コメントを残す

おすすめ作品

なりあがる! 8

BAD=CHILD 4

ピンクの聖夜に抱かれて 後編

なりあがる! 3

彼が泣いた夜