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ハートフル

モモヨ文具店 開店中<6> 〜お盆〜

   2015年4月17日  

あなたには好きな人、いる?
わたし、福永百代には幼馴染みの明賀 タカアキさんがいます。
けれど、残念なことに二人の恋路は交わらない。
タカは好きって言ってくれるんだけれどね、それだけじゃ、もう、駄目なの。
今回は文具のことはお休み。お盆を迎えたわたし、百代がタカのいる松野沢まで行くお話。

 

お盆

 二十四時間三百六十五日、ほとんど休むことのないモモヨ文具店であるが、夕方から翌日にかけて休む日がある。
 八月のお盆だ。
 両親が亡くなっている百代さんは、遠方にある福永家のお墓参りに行く。
【本日夕方より明日一日お休みいたします】
 その看板を下げると、お休みになる。
 携帯もオフ。この日ばかりは、なにがあっても応答しない。
 店の鍵をかけ、カーテンを閉めると、居間で一泊分の荷物を持って準備する。
 荷物と言っても普段のバッグに着替えと寝間着だけなので、あまり量は多くない。
 普段通りの格好をして、普段通りに家を出ると夏の夕方は、まだまだ日が高く、百代さんの目を灼いた。目を細め、陽に手を翳すと、声がかかった。
「おや、百ちゃん、お墓参りかい」
「はい。行ってきますね」
 文具店裏手に住むトミばあちゃんが、背中を丸めた格好でスーパーのビニール袋を持っている。毎晩晩酌するトミばあちゃんは、これから一合飲むからだろう、つまみを買ってきたらしかった。
「じゃ、これ、持っていき。行きに食べたらええ」
 ごそごそと差し出されるのは、殻付きピーナッツ。ふふっと百代さんの頬が緩んだ。
「ありがとう。ばあちゃん。行ってきます」
 ゆっくりと歩き出す百代さんの背中を見送ったトミばあちゃんは、自分の家に戻っていった。
 落ちかけた夏の日射しを浴びながら、百代さんは月世野駅までゆっくり歩いて向かう。今日は風が強く吹いているから日射しの強さと相まって、なんだか秋のような気分になる。
 以前はコインパーキングだったコンビニを横目に、駅で一番遠くまで行く切符を買う。
 未だ自動改札機が入っていない(これからも入ることはないだろう)月世野駅の改札では、駅員さんが切符を挟んでパチンとスタンプを押した。
 電車はなかなか来ない。一時間に二本くらいしか来ない。
 涼しいねーここ、ねー涼しい、そんな会話が同じく待っている夏期講習帰りの女子高生の間で交わされている。これから暑い地域に帰るのだろう、団子のようにまとまった女子高生たちの白の上着と風に翻る紺のスカートが目に眩しい。
 百代さんは、自分が高校生だった時をちょっと思い出し、これから会いに行く、月世野を出て行った幼馴染みを考えながら、ホームにぽつんと置いてある椅子に腰掛け、ピーナッツをぱりぱり破っては食べていた。

 

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