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モノクロビオラ 4章

   

竹内春菜は、曖昧な言葉を連ねる。説教でもなく、協調でもない。

彼女の真意と、摸造線路の正体は――。

 

 結局僕は、あの模造された線路の正体を知らない。知りたくないという感情はあるけれど、それと同時に、知っておく必要があるとも思う。
 昼下がり、休日ということもあって、観光客もまばらにいる。
 展望台やこの辺一帯の地図看板があるだけの、観光地――。
 そしてすぐ近くには、あの線路があるのだ。心を削られていく感覚をじっくり、時間をかけて味わわせられるあの線路が――。
「聞かないの?」
 風でなびく前髪を押さえながら、春菜さんは言った。屈託のない、嫌味のなさすぎる笑顔で。それでいて、少し気をつかっているように、目は真っ直ぐ向けたままで。
「なんであんな場所を知っているのか……ですよね?」
 彼女は虚空を見つめたまま首肯した。
「当たり前ですけど、気にはなりますよ。ただ、聞きたくないという感情のほうが強いですね……それは――」
「それは――倉耶君、君が臆病だからでも、気が弱いからでもない。そうだよね? うん、絶対そうなんだよ」
 事実を知る勇気はあるはず――彼女はそう付け足しだ。
 絶対的な確信を持った、そんな表情で。
「はい、ここでひとつ。これは君を褒めてるんじゃないよ。むしろ、その逆と言っちゃえるかもしれない」
 その逆。褒めている、の逆――。
「どういう……ことですか」
 言いたいことがわからないわけじゃない。ただ、それを春菜さんがどういう言葉を選び、表現するのかが気になった。
 色々想像はしてみるけれど、きっとそのどれもが当たらない――。
「君は最初から、ずっと気付いてる。自分と、その自分を見る自分が矛盾していることを。だから創り上げたんだよ。自分に不都合なジンクスを。それは本当に不幸な人にとっては、すごく腹立たしいことだと思うんだ」
 春菜さんは、やはり僕のほうを見ようとはしなかった。目の前の空気を、ただひたすらに見つめ、ただ思ったことを口にする。
 彼女の言葉には、作られた色しかない。本物の色がない。僕は直感的にそう思った。
 そして僕は、ここで反論しなければならないことを思い出す。
 ここで肯定してしまえば、今まで自分が広げてきた思考全てを否定することになる。
「その不都合なジンクスっていうのは、悪夢のことですよね? 踏み切りで命を落とすという――」
「そうだよ。それは創作も創作。嘘ではなくても、作り話ではなくても、ない場所に在るようにした、君が恣意的に考えてできたもの」
「だけど――」
 僕は急いで反論する。
「だけどそれだと、なぜ僕はわざわざ辛い思いをしながらそんな悪夢を創りあげたんですか。誰も得をしない、そんな創作を。それこそが矛盾というものですよ」
 そこで、そのタイミングで、彼女は僕のほうに顔を向ける。
「矛盾なら、君はとってもわかりやすい矛盾を、言い訳のしようがない矛盾を今日新しく生み出していたよ」
「え……」
 今日? 言い訳のしようがない矛盾を? そんな記憶は一ミリだってないけれど……。だけど春菜さんは、微笑を残したまま、それでいて真剣な表情で僕を責め立てる。
「そりゃあもう、こっちが恥ずかしくなるくらいの矛盾をさ。ふふっ、本当に無意識なんだね。いや、逆に意識的過ぎて、無意識に見えてしまうのかな?」
 彼女は立ち上がった。
 そして、木でできた手すりに、腕を交差させて体重を乗せる。
 後ろからだと表情は見えない。そんな当たり前なことを、僕は考えた。
「模造線路を見たとき、自殺の可能性の話をしたよね?」
「……しましたね。そんな物騒な話、たしかにしました」
 僕は自殺はしない。そんな安直な方法で楽になろうだなんて、そんなことは考えない。自分に言い聞かせるよう、僕は心の中でそうつぶやいた。
「そこがおかしいんだよ。君は、踏み切りで電車に轢かれて死ぬ夢を見る、そう言ってた。間違いなくそう言っていた」
「それと自殺の話になんの関係が――あ……」
 たしかに、そこには矛盾があった。

 

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