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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

金にまみれる男 7

   

 緋影と麻衣は籤稿が労働しているタイへと向かった。日本での借金返済について、武条が逮捕されたことで、もう返済する必要がない。その詳細を話すためにだ。だが、じっさいは緋影もこの目で金塊をみたい一心でわざわざ訪れたのだ。

 空港にはソムさんが出迎えてくれた。発掘現場付近のホテルまで車で送ってくれる。が、発掘現場はそこから車で一時間はかかる。籤稿はもうすでに単身労働していた。
 ホテルには踏子が一人で彼の帰りを待つ。寂しそうにしながら、声をかける緋影。すると、これまでのストレス、鬱憤を怒気を交えて緋影に浴びせかける。

 麻衣の存在が場の空気を和ませる。そして踏子は同年代の彼女に好感を持った。
 だが、再び緋影は踏子の逆鱗に触れるが、そこにソムが現れると緋影とともに籤稿のいる発掘現場へと出掛ける。

 籤稿は日光にも負けず一人で大地と戦っていた。だが、成果はない。それにも関わらず心は折れずに穴を掘り続けるのだ。
 二週間、それは籤稿がタイに入ってからの時間だった。
 緋影は籤稿に、吉報をしらせる。

 

 緋影は麻衣と共にタイへむかう飛行機に搭乗していた。
「着いたら、まずはどこへいくの?」
 麻衣はなぜかウキウキだった。宝石のごとく瞳が輝いてまぶしい。どういう心境でいるかは察しがつく緋影。
「ソムさんに会わないとな。もっとも籤稿さんに会いにいく目的だ。日本での報告をしておかないとな。ふたりはたぶん一緒にいるだろう。穴掘りをずっとやってるかもしれない」
「そう、まぁ穴掘りに関してはどうでもいいけど。気分はうれしくてしかたがない。こうやって海外に旅行するのはじめてだし、たのしみぃー!」
「はっ? 宝生財閥のお嬢様が海外旅行がはじめて? ご冗談をまた」
「ちがうよ。レイジと一緒なのがはじめて―」
 麻衣が話し終えるまえに緋影がかぶせる。
「ちょっと待った。これは旅行ではない。ビジネスなんだぞ。そこをわかっているのか」麻衣の耳元で周囲を警戒するように囁く緋影。「それに、金塊を発掘する目的がある。いくらソムさんと籤稿さんのふたりの労働としても、果たして見つかるかどうか。彼女さんや、現地に到着したら私たちまで肉体労働を手伝うことになったらどうする?」
 麻衣は蒼白な顔にかわった。
「いや、それはぜったいにいや。肉体労働、まっぴらごめん」
「そうだろう。なら、もう少し危機感をもっていろ。遊び感覚だと、ぜったいに手伝うことになる。それがソムさんのしごきでもあるし、遊ばせておくだけの時間や人手不足なのは明白なんだからな」
「わかった」
 緋影の説明に瞳をギラつかせる麻衣だった。やっぱり旅行を満喫する気だ。

 肉体労働を避けるのは緋影も同様だ。使える籤稿はなんでもやりそうだ。体格としてもがっしりしている。足腰も強そうだ。時給の高い事務職を勤めているようだが、じっさいは身体を動かすほうが性に合っていると連絡があった。
 頭を使うことよりも労働をしているという実感を得ているようで、たのしんでいた。そこまでの意気込みがあるのなら、一発逆転できる、と緋影は狙っていた。肉体労働はすべて籤稿が代行してくれる。微笑みが絶えないのは緋影もおなじだった。ウレキサイトに触れると、そこからみえるこの先の輝かしい光景がまぶたの裏に浮かんでもいた。
 緋影は、緋影にとってのチャンスでもあった。鑑定士として、AG Diploma、つまりが地質的な資格が活かせる。ソムさんが所属しているAIGSというタイにある団体もこの資格を学ぶ教育機関でもある。
 ソムさんは反旗を翻し、勝手に地質に関わる金塊を根こそぎ手中に収めようとしている。だが、だれからも咎められることもない。
「要は早い者勝ちだ」緋影は麻衣に誇らしげにいった。
「ずるいひとたちばっかりってことじゃない」
「それが、大人社会というものだ」

 タイに到着すると、ソムさんが出迎えてくれた。
「やあ、こうして会うのはひさしぶりだね。ヒカゲ」
「おひさしぶりです。ソムさん」
 ふたりは再会の喜びに握手を交わす。ソムの赤茶けた肌が、熱帯性の気候がこの手を自然に染めていったのだろう。
「相変わらず少女のような手をしているね。今回の発掘には不向きな人材だ」ソムさんが指摘する。
「そりゃ、そうです。先に言っておきますよ。私はそんな肉体労働向きではないですよ。高みの見物で最終的に現物に触れることを願ってます」
「まったく、戦力外ですかね。だが、きみが紹介してくれたあの男は肉体労働向きだな。三人分働くよ」ソムは籤稿のことをいっていた。
「ほんとうですか、そりゃ驚いたな。まさかそこまでの逸材だとは…」これで自分の出番はない、と緋影は核心していた。「骨休みができそうだ。マイ」
 瞳を輝いている麻衣。バカンスできそうなのでよかったと思っているのだろう。
「おや、そちらのお嬢さんは?」ソムさんは緋影のそばにいる麻衣に気づいた。
「こちらは…」
 緋影が紹介しようとすると、自分から名乗る。それだけ主張の強い女なのだ。
「私は日本でレイジのところで働いている麻衣といいます。お初にお目にかかります」
 軽く会釈してみせる。人前にでることの礼儀をいつのまにか学んでいた麻衣の姿に、緋影はまた驚いた。
「ほほう、出来たお嬢さんだ。どうぞよろしく」ソムさんは車のほうを見る。「では、いきましょう。あの車に乗っていきます」
 3人は搭乗し、ソムさんの運転で金塊が隠されているという場所の近くのホテルまで向かった。

 

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