幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

金にまみれる男 8

   

 緋影がタイにきてから一週間。その間、金塊の発掘の成果はゼロ。
 ついに踏子の怒りが爆発した。もう子どもじみた発掘なんてバカげていると罵る。もう武条への返済がないことを踏子にそれとなく伝えたのが麻衣だった。それはたがいの恋愛感からくる決意もあった。
 籤稿の決意はかわらない。それなりの理由が彼を留まらせている。

 緋影と麻衣は一度日本へ帰国する。その後も成果はない。やがて、緋影は最後の吉報をつたえにタイへ再び飛び立つ。
 しかし、ソムの姿がない。迎えにもこない。音信不通状態。緋影はメールでやりとりしていたというのに、現地にきて連絡がつかないのは不穏ではあったが、タクシーでホテルへ向かった。
 踏子と早々に会う。するとソムは行方不明になっているという。
 だが、籤稿は作業をやめない。差し入れなどは踏子がレンタカーを手配して届けたりもしている。

 そして、今度は三人で籤稿のところへむかう。緋影には手段があった。ソムがいないこと、金塊の行方についての新情報を知る手段。それは籤稿の手荷物に触れるということで、緋影のウレキサイトの石から見通すという手段だった。
 そしてみえた、思想に、緋影の決意は?

 

 さらに一週間が過ぎたが発見には至らなかった。暗雲が立ち込めるタイの空。
 ホテルのレストランで、緋影、麻衣、ソム、籤稿、踏子はひとつの丸いテーブルを囲んで夕食をしていた。成果ゼロの状態にも関わらず、緋影たちが訪問してくれたという理由をこじづけて、ここまでの労いという意味での豪華な夕食をソムはもてなしてくれた。
 しかし、ついに踏子のストレスが爆発してしまった。
「もうむりだよ。帰ろうよ。むだだよ。いまどき金塊なんて、馬鹿げてる! 現実をみてよ、もうじゅうぶんこたえているよ。あなたたちのしているロマンかなにかはわからないけど、男たちがそろって宝探しなんて、子どもがやること。社会人ならもっと一日いちにちをたいせつにして。カツジさん、もう武条に返済しなくていいんだし…、緋影さん、少ないけど私たちが手を引くだけのお金を用意するからお願いします。リタイアさせてください」立ち上がり、姿勢を伸ばすと頭を下げる踏子。
 緋影は麻衣をにらむ。「おまえがつたえたようだな。籤稿さんはまだ彼女に話していないと、さっきも確認した。それをいったら彼女はぜったいにどんな手段をこうじてでも日本への帰還に及ぶといっていたから、いつだ?」
 麻衣は肩を竦めていた。「初日に」

 緋影はソムと現地へむかった初日の日。ホテルのロビーで踏子とふたりっきりになった麻衣。そして、何も考えずにふたりに伝えるべき吉報を麻衣は話す。
「え、もう返済する必要ないの? タイでの穴掘りも解除できるわけ?」
 麻衣は、ティーをのみながらうなずいた。
「でも、さっき鑑定士さんは契約だから、それは不可能だ。みたいなことをいっていたのはなに?」
「サプライズでもしようとしたんじゃないかな。ほんとうはふたり一緒にいるときに話そうと、それまでは意地悪くするひとなのかも」
「なんでそんな意地悪するのかしら、まったくもって意味がない」
「意味があるの、あのひとには」麻衣がそういうと、踏子は不思議そうに首をかしげた。
「つまりが、心を揺さぶってどういう反応をしめすかデータ集めのようなものね」
「はっ? なにそれ、意味わかんない」
「またまたつまりね、首からさげているペンタンドあったでしょ?」
 踏子は思い浮かべるように上目遣いになる。記憶を呼び起こしていた。
「あ、たしかにあったかも。なんか半透明の白っぽい石が…」
「そう、あれがウレキサイトの石。ひとの心を見通す石といわれているの。そのために、他人がどういう質問に対応するか、それを観察する。そういう着眼点のデータを収集して、いくつものひとの心理の方向を選択肢しながら行方を定めていくわけ。もしはずれそうになった場合、すぐ修正できるように誘導するの。自分の都合のいいように。ウレキサイトの石にそんなちからはない。あのひとの言葉巧みに誘導される。それがひとの心の弱さに付入ることで、自分への利へとつなげているの。それがあのひとのほんとうの正体というのかな」
 踏子は、一番のペテン師は、鑑定士緋影だったのだと思った。
「でもあなたはそんな彼についていっている。どうして?」
「好きなのかな。やっぱり一緒にいると、彼の弱点のようなものも見えてくるし」麻衣は頬を赤らめていた。
「かわいいわね。マイちゃんは。でもそれもひとつの男女の恋愛感よね。あなたたちも、私たちも、同じ恋愛をしている。たがいにストーリーがある。なるほどね」踏子の怒りは沈静化していった。
「どうするの?」麻衣は不思議と落ち着いている踏子にきいた。
「うん、様子をみることにする。でも一週間くらいがもう、限界かな。ちょうど一ヶ月にもなるし。日本にもどりたい」踏子は静かに答えた。
 ふたりがタイに来てから一ヶ月が経つ、その瞬間まで猶予を与えた。そこで見つからないのなら、帰国をせがむことに踏子の決意は固まったのだ。

「いい加減にしろ!」籤稿が怒声をあげた。それは踏子にむけて言い放っていた。「おれはこんなことであきらめたりはしない。やりきってみせる。これがもし発見したらぜったいに幸福へつながる。そのための労働だ。これまでいくつもの仕事をしたことが、なにをやっても不十分だった。正社員とはちがって、とても仕事というものがたのしくでしかたがない。自分がやりたいことってこういうことだったのかもしれないと。発掘することが自分のポテンシャルを活かせる職業なんだ。だからあきらめたくない。これは、いまのおれにしかできない仕事なんだ。わかってくれ…」
 踏子の両腕を握りしめる籤稿。それは対等な目線で向かい合っていい躾けるように頼んでいた。
 重い沈黙が肺の伸縮を阻もうとしている。それは呼吸すらできないほどの淀んだ空気が埃のように舞っていたからだろう。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

鑑定士・緋影 零時(ひかげ れいじ) 第1話第2話第3話第4話第5話第6話第7話第8話第9話第10話第11話

コメントを残す

おすすめ作品

金にまみれる男 9

Egg〜スパイの恋人〜episode6

天使のように、泣け [第1話]

8月のエンドロール 16

Egg〜スパイの恋人〜episode10

アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編 第34話「それでも――――」

   2017/11/20

探偵の眼・御影解宗の推理 【嘆きの双子】15

   2017/11/20

ロボット育児日記39

   2017/11/17

忠実な部下たち

   2017/11/17

モモヨ文具店 開店中<36> ~帰り行く者~

   2017/11/16