幻創文芸文庫 (β)

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ショート・ショート

三人の凄腕

   

ある会社の社長が三人の男を呼び寄せた。

会社の経営が苦しく、手元に残っているのは数十枚の、無名の画家が描いた絵画だけ。

本来なら一銭にもならないこの絵を何とか高く売りたいと、社長は、凄腕の営業マンと呼ばれた男、天才発明家と呼ばれた男、そして何をしているかは不明だが周囲から凄腕と目されている男の三人を呼んだのだ。

社長に問われ、男たちが出した答えとは……?

 

 とある会社の一室で、七十代ぐらいの紳士と三人の男が向かい合って座っていた。
 体格の良い紳士には、確かに長年人を動かしてきた雰囲気のようなものが備わっていたが、見るからに疲れ切ってもいた。
 三人が話を聞く態勢になったと見るや、社長は前置きもなく頭を深々と下げた。
「本当に今日はよくぞお越し下さいました。旧来のわずかばかりのコネを使った頼み方、申し訳なく思っています。しかし、私にはもう他に手段はないのです。あらゆる資産は金融機関に押さえられ、今着ている服にしても質屋に無理を言って、一時的に戻してもらったぐらいです。手元に残っているのは……」
 社長は輝きのない目で自分の傍らに積まれたものを見やった。
「この、かつて譲り受けた数十枚の絵だけです。いえ、残ったのではなく買い手がつかなかったのです。描き手はまったくの無名で、しかも決して上手ではありません。私にでも、稚拙ではないだけの特徴がない作品だということは何となく分かります。しかし、わが社はもう、この絵にすがるしかないのです。何とか価値を引き上げ、当座をしのぐだけの資金を得る方法はないでしょうか」
 社長の真剣な表情と声に場の空気が一気に引き締まった。
 皆、今日のイベントが単なる暇つぶしではなく、一つの会社と多くの人の将来を賭けたものであると感じ取ったのだ。
 それほど、社長の静かな苦悩は胸に迫るものがあった。
 特別な雰囲気を持つ男たちは、声を交わすこともなく考えを巡らせていった。
「これでいきましょう」
 十分ほどして、良く使い込まれた上質のスーツに身を包んだ男が声を上げた。
 彼は、ある業界で伝説とまで言われた営業マンだった。
「何か名案がおありですか」
 待ちかねたような社長の言葉に、営業マンは魅力的な笑顔を見せた。
「特徴を活かして売り込みましょう。変わったところのない絵ですが、恐らく大丈夫でしょう」
「と、言いますと?」
 社長がわずかに上体を前に傾け相槌を打った。営業マンはすらすらと手振りを交えて語る。
「この絵画の特徴、それはつまり『昔ながら』ということです。機械処理と補正描画が当たり前のこのご時世に、まったく伝統的な油絵や水彩画の手法だけで描かれている。もちろん伝統画も多く出回っていますが、そうした絵は大昔の芸術家によるものか、大家と呼ばれる人々が描いたものです。一般の方、もっと言えば普通の裕福程度では手が届きませんし、そもそも美術館が手放しません。しかしここにある絵なら、比較的手頃な値段で売り出すことができます。しかもまだ誰も知らない新味がある絵ですからね、広報次第では完売も十分に可能ですよ。私に任せて下さればね」
 営業マンの自信に満ちた物言いは、まさしく社長が聞きたかった言葉だった。
「素晴らしい。今まで会ったどんなコンサルタントもここまでのことを話しては下さらなかった。もし絵が売れた際には、今日の気持ちを形にしたいと思います」
「お気に召されたようで何よりです。では、本格的に事が動いた際に、またお呼び下さい」
 営業マンは深々とお辞儀をし、オフィスを後にした。
 他にも山ほど依頼が入っている彼には、立ち止まっている時間はない。
 同席した他人の回答には興味はあっても、それよりも仕事を優先しなければならないのだ。

 

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