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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

金にまみれる男 9

   

 籤稿の働きっぷりをみる緋影と麻衣。手伝えと要求する籤稿。緋影たちは容赦なく拒絶する。
 そこに踏子が現れる。
 夕焼けになるまで籤稿は背中で踏子の視線を感じながら、穴を掘り続ける。金塊もみつからないまま、夕焼けが染まっていく。
 踏子は籤稿がこれほど労働に勤しむ姿をみて、日本にもどってからもしっかりと働くことができるのではないか、と期待と要望を込めていった。
 いつしか籤稿は作家の熱意よりも、夢やロマンの熱情がこみあげていた。
 日が沈むまでそのままふたりは長い話をしている。現状のこと、未来のこと、そして踏子は命の話をした。
 籤稿は驚愕を知る。

 日が傾くにつれ、徐々に探し求めていた物が目を光らせる。
 星空のきらめきと呼応するように輝きを土のなかから輝きを放っていた。緋影は歓喜を隠すように、翌日それを手にし、日本へと帰国する。

 報酬として緋影は、籤稿に安っぽいリングをプレゼントする。
 踏子にプロポーズする籤稿。そのリングを見せると、踏子は唐突に籤稿の前を去っていった。しかし、翌日、再び会うと抱きつく。
 緋影のところに踏子は単身赴いた。そして、思わぬ真実を知ることになる。

 籤稿と踏子、ふたりの人生に大きく関わった緋影の最高のサプライズをその目で読んでいただきたい。

 鑑定士・緋影 零時:第二作目、ここに完結。

 

 ふたりがみつめる先には、籤稿のいつもの格好で、タンクトップ、作業パンツ、安全ブーツの格好で、山を削り宝を掘削していた。
「おーい! おまえらみてるだけじゃなく手伝えばいいだろ!」
 気づいていたようだ。挨拶もなく、手伝えという横暴さ、ガテン系の性格にでも変貌してしまったのだろうか。
「いえ、私はけっこう。力仕事は不向きなので」緋影は手のひらをむけて断絶。
「わたしもー、埃とか土とか、わけわかんなーい」
「けー! なんてやつらだ! 昔の人間はな、この土を耕して生きるための食い物を育ててきたんだぞ。それは現代にも継がれている農民にとっての生きる脈だ。それをなんたる体たらくな連中なんだ。若いやつらはこれだからダメなんだよ!」
 日照りのある空の下、中年男が歴史を語っていた。
「ダメということではなく、ただいやなだけ」緋影はいった。
「そういうこと。汗が天敵」麻衣もいった。
 たくっ、籤稿と皮肉を吐き出す。
「もっとも彼のいうことはただしいが、すでに現代では確立されている世界がある。未開拓地で畑を掘るための作業をどれだけ奮起しようと意味はない。彼はまちがっている」
 緋影はその知恵話を納得していたが、手伝う気はさらさらない。
「レイジ、そうではないと思うけど」麻衣が呈した。
「そうだな」
 言い訳がましいことを並べただけだと、緋影も麻衣も、やりたくない、それに尽きていた。
 そこに彼女が現れた。
「踏子さんだよ」麻衣がいった。
「そうだな。彼女もまたたいへんな立場に置かれている。さて、われわれはいくとしよう」
 緋影は言葉をかけることもなく、遠くからみつめる勇ましい男の背中をみつめる踏子をみていたが、この場を去るように麻衣の手を引っ張っていった。
「いいの?」
「ああ。あとはふたりの問題だろ。できることはすべてやった。未来を決めるのはそれぞれの考えや想いから成り立つ」

 籤稿は顔をしかめ、くちを閉ざした。踏子が視界にはいったことでその視線すら定まらず風景に目を飛ばす。
 踏子もまた木陰のなかに身を置いて、労働に勤しむ彼を見守るようにみていた。

 みなぎる太陽光も地平線に落ちようとしていた。それまであまり休むこともなく籤稿は身を削っていた。ただ踏子がずっと声の届く範囲で視線を投げかけていたからだ。木陰での休憩をとることなく、その視線の訴えを胸のなかは侵食していった。
「もう休んだら?」踏子が先にいった。いつのまにか籤稿が掘削しているところまで歩み寄っていた。
「そのチャラチャラしたドレスが汚れるよ」籤稿はワンピース姿の踏子を見上げていた。
「いいのよ、べつに」踏子は土が盛り上がったところに尻からすわる。
「おい、そんなとこにすわるなよ」
「いいの、はい、ドリンクのんで」踏子は無造作に籤稿に放った。
 いきなりのことで慌てて受け取った籤稿。だが、そのドリンクの冷たさに休憩したい欲求が沸いてきた。
「すまない。たしかに体が火照って、かなり酷使してたかもしれない」籤稿は穴から出て、踏子のとなりにすわる。
「汗、いっぱいかいてるじゃない、拭いて」踏子がタオルで拭ってあげる。籤稿も自分のタオルで体を拭く。
「生き返る」
 籤稿は微笑んだ。
「ここで、これだけがんばって肉体労働して、もう日本に帰ってもおなじように仕事できるようになるかもね。真面目に働くことを理解し、地道に生きていくこと、それがわたしたちの願いだし、どうかな」
 踏子のいっていることは正論だ。だれもが歩むべき道である。
「わかってはいる。だが、まだここにはあるんだ」
 踏子にはわかっている。ここにあるもの、それは”夢やロマン”だということ。そんな淡い幻想のような思考にとりつかれた哀れな男。その切ない衝動を30歳過ぎても抱き続けているのは、馬鹿げてる。
 彼女は心底、願う。
「現実をしって、社会的に貢献できるだけの大人になってほしいの」
 男に言葉はなかった。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

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