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ハートフル

モモヨ文具店 開店中<8> 〜マスキングテープマダム〜

   2015年5月1日  

今回のお客さんは、とってもわがままなおばあちゃん。そのおばあちゃんは、うちで何度も大量に文具を買っていくんだけど、どうやら月世野のほとんどのお店でやってるみたい。お金持ちの暇つぶしのようだけど、わたしの目の黒いうちはそんなことさせません!
『マスキングテープマダム』開店します。

 

マスキングテープマダム

 夏空と秋風が混じりあう九月半ば。
 モモヨ文具店の店内はひりついた緊張に満ちていた。
 麦茶を飲む百代さんの目の前にはここいらでは見かけないほど婀娜っぽくも品の良い老婦人が、麦茶のグラス片手に艶然と微笑んでいる。老婦人はパイプ椅子に腰掛け、脚を組んでヒールを揺らしている。
「それにしても、まさか本当に来るとは思っていませんでした。よろしかったら麦茶、召し上がってください。単なる煮出しの麦茶ですけど」
 本当に、の部分を強調する。
 にこーっと微笑んで最初のジャブを放ったのは百代さんだった。
 応じる老婦人もこれまた艶っぽく微笑むと、百代さんにストレートを放つ。
「あら、あなたが言ったのよ。来てくださいって。だから来たのよ」
 百代さんは笑みを深め、老婦人もまた、楽しそうに微笑んだ。
 にこーっとにこりが、ぶつかり合い、火花を散らした。
 話は、数ヶ月前に遡る。

 段ボールに入った大量のマスキングテープを前に、百代さんは溜息をついた。
(……まさか、キャンセル入るとは思わなかったなあ……)
 お客さんの一人が結婚式に使うということで、マスキングテープを片っ端から注文していったのだが商品到着の連絡を受けてから、突然キャンセルになったのだ。
(参った……マスキングテープフェアをやろうかなあ……)
 百代さんが段ボールの前で、うんうん唸っていたときだ。
 表に黒塗りのリムジンが音もなく滑り込んできて止まった。
(ん? うちじゃないわよね?)
 と思ったが、どうやらモモヨ文具店が目当てらしい。
 若い女性に支えられて、顔の半分も隠れるようなでかいサングラスをかけた老婦人が杖をついてやってくる。その杖を振り、引き戸を開けろと店内にいる百代さんに指示した。
「あっ、はい。すみません、ぼーっとしちゃって」
(なんなの。このおばあちゃん。感じ悪い)
 慌てて引き戸を開けると老婦人は、若い女性の支えをうるさそうに振り払った。
「いらっしゃいませ。なにをお求めですか?」
 だが、老婦人はまったく応じることなく、じっと店内を見渡している。それが睨むに近い様子で、百代さんは眉をひそめた。
「あの……」
「主人が亡くなったの」
 突然の老婦人の言葉に、百代さんはワンテンポ反応が遅れた。
「……それは、ご愁傷様です」
「それでね、あなた、これを、この紙の物を用意して欲しいんだけど。あなた、ここの店員?」
「いえ、わたしはここの店主です」
 後ろに控えた若い女性から紙をひったくって、百代さんに渡した老婦人は、まあまあと笑ってみせた。
「若い女性でやっていけるの?」
「ええ、地域の皆さんのご助力がありますのでなんとか」
(感じの悪いばあちゃんだな!)
 百代さんが珍しく内心、憤っていると老婦人は「……してくださる?」と言った。
「え?」
「御用聞きしてくださる?」
「文具のですか?」
 聞いたことのない言葉に思わず聞き返すと、老婦人は艶然と馬鹿にしたように笑った。
「それ以外、この店で売ってるの?」

 

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