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道 第九回 日本画家、小林耕三

   

咲が打ち明けてくれたことは衝撃的なことだった。

父が日本画の名門大雅会で師範代を務めていた「小林耕三」、その弟子が咲の弟、鈴木敬一、現在の栗原陽一朗。

咲の話は続く。世の中では小林耕三は大雅会を潰したと言われているが、事実は違う、栗原陽一朗が引き起こしたスキャンダルを、ただ彼の才能を潰さないために、全責任を一人で背負ったのが耕三だと。

一方、耕三は雄介を諭す。「天才と呼ばれることより、天才であり続けることの方が大変だ。」

 

第十四章 父の過去

「昭和43年6月、私は弟を日本画の名門、大雅会に連れて行きました。
 
 前年の夏に父が風邪をこじらせ、肺炎であっという間に亡くなり、母も既に数年前に死亡していました。

 私たちの父も啓子さんのお祖父さんと同じ襖絵画家でした。」

啓子は自分の祖父のことは聞いたことがなかった。

「初めて聞いたわ。祖父のことは何も教えてもらってないのよ。」
「耕三さんは姓を『小林』からあなたのお母さんの姓『山本』に変えた時、全て決別したのですよ。」

咲は話を続けた。

「私たちの父は日ごろから人付き合いが苦手で、親族とも疎遠であったため、私と弟の敬一は身寄りがありませんでした。

 その当時、私は建設会社に勤めていたが、そのお給料だけでは食べていくのが精一杯で、弟は高校を中退してしまい、悪い仲間と付き合い始めていましたので、なんとか立ち直らせたかったのです。

 弟は小さい時から父の仕事場で、真似事ですが絵を描いていました。身贔屓かも知れませんが、絵が上手でした。
 父の下には職人が何人かいましたが、その人たちも『坊主、お前は凄いな』と感心していました。父は人のことを褒めませんが、弟の絵を見てニコニコしていました。

 だから、弟を立ち直らせたくて、私はそれに掛けてみたのです。」

「あの、私はこれで失礼します。」

雄介の伯母、恵美子は啓子の個人的なことに触れるのは遠慮しようと思った。

「いえ、一緒に聞いて。
 恵美子さん、雄介君の指導にも関係あるんだから。」

理由はどうでもよかった。啓子は咲の話を一人で聞くことが怖かったのだ。

 

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