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幻幽綺譚<2> 努力

   

 何をするにも努力が大切です。幻幽な冥界から逃げるにも、やはり努力が……。

 

 本日は、もう、本当にうれしいです。
 この有名な、ヘアデザイナー新人賞を受賞出来るなんて、夢のようです。
 正直、舞い上がっています。
 最高!
 え、ええと、それで……、受賞の挨拶なんですが、先ず、なにより、ヘアデザイン・スクールの先生方へのお礼を、言わなければなりません。
 先生方のご指導で、ここまで来ることができたんです。
 ありがとうございました。
 副賞のパリ留学でも、先生方の教えを忘れず、さらにがんばります。
 次に、ヘアデザイン・スクールの友達にも御礼を言います。
 苦しいときに助けてくれました。
 友達っていいもんだな、とつくづく思います。
 みんな、ありがとう。
 夢を実現させるまで、がんばろうな。
 それと、この場を借りまして、父にも感謝の言葉を捧げたいと思います。
 突然死んでしまった父ですが、きっと草葉の陰から、この授賞式を見てくれていると思います。
 お父さん、ありがとう。
 父は職人でした。
 床屋の仕事に誇りを持って、たゆまず努力を重ねていました。
 そして、私にも、父の、職人の血が流れていることをつくづくと感じます。
 私の原点は父の床屋です。
 ヘアデザイナーとして世界に羽ばたくのが私の夢ですが、その原点は、日本の床屋の技術なんです。
 父は、死ぬとき、苦しい息の下から、人形を燃やすように言いました。
 父が練習に使っていた人形です。
 人形を燃やせ、とは、父らしい、最後の指導方法だと思いました。
 床屋の職人技術はもう古い、最新のヘアカットを学べ、ということなんです。
 でも、人形を見て、私は父の息子であることを強く意識しました。
 職人として、父のような、髪の毛を切る技術を身につけよう、と決心したんです。
 ですから、人形は燃やしませんでした。
 その人形で髪の毛を切る技術を練習したのです。
 努力に努力を重ねました。
 朝、起きると、先ず、人形の髪の毛を切る。
 そしてヘアデザイン・スクールへ行く。
 夜、帰ってくると、もう、人形の髪の毛が伸びている。
 それを、また切る。
 朝起きると、また、髪の毛が伸びている。
 それを切る。
 この繰り返しです。
 すぐに人形の髪の毛が伸びるので、切るのは大変でした。
 でも、この努力が、今日の新人賞受賞につながったのだと思います。
 もちろん、今でも、人形の髪の毛を切る努力は続けています。
 だから、父が、人形を残してくれたことに感謝します。
 もう一度言います。
 お父さん、ありがとう、これからも人形を大切にするからね。

 

-幻幽綺譚 第2話 了-

 

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