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廃村を照らす自販機

   

二人のライターは、編集長に命じられ、ハードな経験をしたらしいかつての同業者の男、西崎を取材していた。西崎は以前は業界でも少しは名の知られた男だったが、最近はまったく物書き仕事をしていない。

取材の申し込みに最初はかたくなだった西崎だったが、何度も足を運ぶ二人の態度に誠意を感じたのか、ある山奥での災難と、「最後の仕事」について話し始める。

ボロボロになった家々に寄り添うように延々と並ぶ自販機の列、廃屋で暮らしながらもまったく親しもうとはしない奇妙な住民たち。自販機が置かれている奇妙な現実と理由とは……?

独白形式が主の小説です。

 

 ああ、またあんたか。俺のところに何度も足を運ぶなんて、本格的にやる事がねえみてえだな。
 はは、そう嫌な顔をするなよ、冗談だ。
 分かってるさ、ネタが欲しくて仕方がないんだろ? 大変だものな。
 俺も三年前まで同業者だったから、事情は分かるさ。今は鉛筆だって持ち歩いちゃいねえけどな。

 俺は、ライターをやってた。
 いわゆる秘境専門でな、しかも国内限定。一つの場所に居つくのが嫌でしょうがなかったから、足で稼ぐのは苦じゃなかった。
 収入は大したことなかったが、テントで生活してる分には関係ない。
 チャリでどこまででも行ってやる、なんて考えてたぐらい、仕事には燃えてたんだ。
 その時も俺は、ある県の廃村を目指して突っ走ってたんだ。
 だが、いくらやる気でも天気だけはどうしょうもねえよな。
 必死こいて自転車をこいでたら、急に空が真っ暗になってきやがってよ、雷が鳴り出したと思ったら、物凄い雨が降ってきた。
 良くラジオで聞くゲリラ豪雨ってやつかも知れねえが、山慣れしている俺もまるで経験がないぐらいの豪雨だ。
 半世紀以上生きちゃいるが、あれだけ真っ黒くて分厚い雲を見たことはTVを通じてもないよ。
 レインコートを着ててもビシバシ肌が打たれて痛くてしょうがないぐらいの勢いで、しかも深い山の中だ。
 一メートル先だって分からねえし、雨と雷の音と衝撃以外、何も聞こえねえし感じられねえ。
 立ち止まればまだ少しはマシだったかも知れんが、痛えし寒いしで俺、ちょっとパニクっちゃったんだよな、今から思うと。
 ろくに前も見えねえのに、全力疾走始めちまったんだよ。
 どうなるかは目に見えてるよな。
 一分もしないうちに道から飛び出ちまったんだよ。
 もちろん、防護ネットなんかあるわけねえ。はるか下の地面まで一直線さ。
 死んだ、と思ったね。
 空中に投げ出されながら、色んな人の顔を思い浮かべてたよ。
 走馬灯ってやつ? 俺今まで信じてなかったけど、本当にあるらしい。
 何か時間の流れがやけにスローに感じられたりとか。珍しい経験をしてる、でも、書けないまま終わっちまうのが惜しいな、なんて、やけに冷静に考えてるうちに俺は意識を失ってたらしい。

 

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