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SF・ファンタジー・ホラー

cat 〜その想い〜 2

   

 猫と暮らすようになった岱馳。しかし、真冬だというのにみずからベランダへ出ていった。
 だが、よくみていると、子猫から懐かしい感じがしてならない。なにがそう思わせるのか、岱馳は不思議でしかたがなかった。

 彼女と暮らすために、省エネのエアコンを購入した。しかし、ベランダにいる猫はエアコンのファンの風や騒音に驚いて騒ぎだす。
 しかたなく岱馳は、今冬エアコンを始動させることをあきらめた。
 子猫一匹になんという配慮をしなければならないのか。清々しい一日のはじまりが、思わぬ気遣いをしなければならないことに、いったいなにをしているのか、と自問自答することになる。

 夕暮れになると、猫のためにスーパーへ買出しへでかけることにした。毎日ツナ缶というわけにもいかない。多少はバラエティを考える献立にしようと思っているのだ。
 だが、玄関ドアを開けるさい、ゆらりとカーテン越しに暗い動くものをみた。と岱馳の視覚は感じた。思わず、恐怖心にふれた。
 その正体は、まさかと思ったところ、やはり猫だった。
”なぜ、主がでかけることをベランダにいる猫がわかったのか”。
 不思議が不可解に変わる瞬間でもあった。

 そして、岱馳の第二幕の人生がはじまる。

 数日後、岱馳はニュースを観ながら、吉報を知ることになる。

 

 猫が自ら育ち旅立つ日までのあいだだけ、気にかけてやることにした。
 室内にペットがいることがしれたら大家に注意されることは明白だ。なにかわるいことをしているみたいで気が引ける。
「なんだ、いったいきょうという日は…」
 すがすがしい気分が一変して小さな命を背負う日になった。まるで生きるためにひつような活力を得た動力源がこの体に組み込まれたかのように。

 部屋のドアを開ける前に、ガラス張りのドアを開けて猫へ近寄る。ガラス張りのドアを猫の手がたたいている光景が、切ない気持ちにさせる。見据えるように佇む岱馳。その動作に戸惑いながらガラス張りのドアを再び開ける。ほんのすこしドアが開いた状態ですぐに猫の薄い体がスルスルとはいってきた。
「ミャン」
 声はちいさく儚いようななんともいえない声質で鳴いていた。小動物は、蛇が枝にまとわりつくように岱馳の脛に毛並みをこすりつけていた。愛らしいその姿に思わず抱き上げていた。そして主は猫を部屋の中へ招きいれた。
 これもなにかの縁、人間らしい人情めいたことばをつぶやく。福を招きいれてもらえるかもしれない。少なからずちいさな命を助けたのだ。その見返りくらいはあるかもしれない。なくても気にはしないが、なんといってもこれだけちいさな猫だ。なにかあるわけがない。そんな都合のいい世界は映画やテレビのなかにしかない。それが現実だ。

 しかし、この猫からは懐かしいような感じがする。記憶を探るがはっきりせず、頭のなかにチラつき乱れたとびとびの映像がループしていた。

 部屋のなかにいれて床に置いた猫は、身動きせずにキョロキョロと室内を右往左往と首を振っていた。なにを見ているのか、なにを探しているのか、なにかが見えているのか、人間では猫の思考が読み取れない。それほど感心がないからべつに猫の行動については気にかけてない。主を困らせ羞恥を浴びせるようなことをしなければ構わない。
 とりあえず猫の行動については放置することにした。腹が減っているのかもしれないが猫が食べるものがなんだったかおもいつかなかった。冷蔵庫のなかを調べてみた。食べられそうなものがあるか適当に与えてみようと、あれこれと考えてみた。
 猫がニャンと鳴いたのがきこえた。その鳴き声に顔をむけると猫は窓際のカーテンのまえで前足をそろえて凛々しく佇んでいた。
「なんだ?」直感的なものを感じとったのかもしれない。
 猫の意識が主の脳に、直接訴えかけてきたような錯覚にさえ陥った。脳波がシンクロしたといったほうがただしいかもしれない。不動のごとく構えたまま態勢を崩さず、主が近づくと背をむけた。首をくるっと回し、まるで外にでたいような反応を見せた。
「カーテンをあければベランダにでる。おまえはそれをしっているのか?」
 猫はミャン。といった。
「そうか。なら」
 とりあえずカーテンをあけ、窓を開けた。すると猫はするするとベランダへ出ていった。猫はこの部屋の構造や条件を何らかの方法でしりえたのだろうか。
 自らベランダに出るとは信じられない。この部屋にはこたつがある。こたつに直行するのが猫の習性ではないのか、それは偏見と岱馳の認識が誤っていたのだろうか。
 猫はこたつで丸くなるものだ。それを冷風が吹き止まないベランダなんかで真冬を過ごせるはずもない。北向きで日光があたることもない。一日じゅう影が射している。凍死を選んだのか。猫を助けた意味がなくなる。自殺行為を止めるべきだと急務な気がする。猫に手をさしのばすとそっぽをむいた。どうやら構わないらしいことがたしかにわかった。一畳ほどのベランダで猫一匹いても邪魔にはならない。かってにベランダで暮らすつもりらしい。猫にしては殊勝な心がけだと感心した。

 

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