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SF・ファンタジー・ホラー

– アイサイ – 第6章

   

 美人で若い妻──のはずの女と、
 可愛い息子──のはずの子供に囲まれ過ごす幸せの日々──。

 だがそれも唐突に終わりを告げる。

 男は知る事になる。この家の秘密を──、妻であるはずの女の秘密を──!

 

 ある日。鍵をどうにか出来ないかと居間で弥一を構いながら考えていた時だった。
「……?」
 家の外に誰かの気配を感じた。
 杏子はたった今、買い物に車で出たばかりだ。杏子では無いだろう。では誰だ──?
 俺は弥一を炬燵布団へと寝かせると、身体に鞭打って立ち上がった。
 そろそろと窓辺に寄り、ゆっくりと曇りガラスの窓を開けて外を窺って見た。すると──
「!」
 警官だ! それも1人や2人じゃない。かなりの数が居る!
 ──バレた? 俺が此処に居る事がバレたのか?
 俺は周章狼狽した。このままでは警察に捕まってしまうという恐怖がみるみる心の中を支配した。
 俺が何をやったかは依然として思い出せない。だが、『警察に捕まってたまるか! 逃げなくては!』という強い思いが沸き上がる。
「にっ、逃げなくちゃ……!」
 俺は窓から見えないように壁にへばりついたままそう呟いた。呟いてからそれが俺の本心である事に気付いた。
 何が何だか分からない──。それでも逃げなくては!
 強迫観念に似た思いに駆られ、俺は必死に考えた。
「逃げる? 逃げるって何処へ? もう家は包囲されているんだぞ! 逃げ道なんて無い!」
 独り言ちて絶望した。炬燵から這い出た弥一が俺を見上げながらきょとんとした顔をしている。
 考えろ考えろ考えろ! 何かあるはずだ──。
 この家の構造を頭に思い浮かべた。
 居間、和室、洋室、便所、小部屋、どれもダメだ! 隠れる所なんて無いし、外への逃げ場所も無い。
「うはははは……」
 四面楚歌。逃げ場無し。八方塞がりとはこの事だ。
 俺は悲嘆に暮れた。もうダメだ。捕まるのも時間の問題だ。
 ──ならば、ならばもういっその事、知りたい事を知っておくべきじゃないか?
 家に隠された風呂場への扉。あれをぶっ壊して風呂場に何があるか知りたい。その後だったら、どうなったっていい。
 どうせ捕まるなら──。その思いが俺を突き動かした。
 俺は不自由な身体を操作して台所に向かった。痛みは無い。緊張で吹っ飛んだようだ。
 台所に着くと、即座に出刃包丁を手にした。家に有る中で一番刃が分厚いヤツだ。鍵を壊すなら斧や鉈が有れば良かったのだろうが、いかんせん一般家庭の中だ。有るとしても包丁がせいぜいだ。
 俺はその家の中では一番の得物を持って、鍵の掛かっている扉に赴いた。
「さあ……、何があるのか!」
 俺は扉と枠の隙間に刃を入れると、全体重を掛けて鍵の部分を責めた。ギュリッギュリッという金属同士が擦り合う厭な音がする。
「うあああ! 開けよ! クソがぁっ!」
 目一杯力を込める。鍵の部分がひしゃげて来ているのが感触で解った。あともう少しだ。
 ガチーンッ!
 高い音を立てて遂に鍵が暴力の前に屈した。
「やっと開いたぞ」
 俺は扉を開けると中に飛び込んだ。
 まず目に飛び込んで来たのは脱衣所。そして木造りの扉だった。
「また扉?」
 俺はざっと脱衣所に目を向けてから扉を開けてみた。鍵は掛かっていないので、容易に開く事が出来た。
「う……わ……」
 冷気。そこには地下へと降るセメントの階段が有った。
「なんでこんな所に階段が? この家には地下室が在ったのか!」
 これは盲点だった。ずっと平屋だと思い込んでいた。妙な位置に階段の有る家だ。
 ──いや、それよりも今はこっちだ!
 俺はいつ警察が家に突入して来るかと怯えながら脱衣所の向こうにある曇りガラスの扉を開け、中に飛び込んだ。
「うっ!」
 途端に異臭が鼻についた。

 

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