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SF・ファンタジー・ホラー

サクリファイスⅡ 完結編3

   

失った時間をやり直すこと。
それは、永遠の時の中でも小さな傷に過ぎなかったのかもしれない。

オカルトファンタジー、第二弾!

 

 かつて、シャルルが愛した女性が目の前にいた。無論、今も心から愛している。
「愛してる」
 泣きそうな声で、シャルルが呟いた。ロザリーナは、笑っていた。
 ロザリーナの注文した珈琲が運ばれる。彼女はそれを一口飲んでから、やっと会話を始めた。
「本、読んだわよ。面白かったわ」
「君の為の、本だよ」
「久しぶりに、会いたくなったの」
 ロザリーナのその台詞には抑揚がなく、所謂棒読みであったが、それでもシャルルにとっては胸踊るほど嬉しい言葉であった。
「よく、わかったね。僕が、ここに居るって」
「そうね。貴方なら、ここに居るって思ったの」
 シャルルは、言葉に詰まった。ロザリーナと再会したら、話したい事が沢山あった筈なのに、頭の中が白紙になったように言葉が出てこなくなったのだ。
 暫くの沈黙の後、シャルルは吹っ切れたかの様に笑った。
「今住んでいる部屋なんだけど、君が好きだったあの部屋によく似ているんだ。静かな海が見える。君が流れ着いた、あの海が」
 二人の間に、静かな空気が流れていた。
 ロザリーナが珈琲を飲み終えると、シャルルはカフェを出ようと言った。ロザリーナも、それに従った。
 二人で、歩みを進める。以前は林があり、無造作だった道を進み、シャルルの住むアパートの前で足を止めた。
「ここに、住んでるの?」
 ロザリーナが、問うた。
「そうだよ。どうしても、あの部屋から見える景色を見せたくて」
「いいわ」
 ロザリーナは、アパートに向かって歩みを進めるも、ぴたりと足を止めた。シャルルが、立ち止まったままであることに気付いたからだ。そして、振り返る。
「どうしたの?」
 シャルルも、歩みを始めた。
「なんでもないよ。今夜は、何処に泊まるの?」
「まだ、フランスに着いたばかりなのよ。決まってないわ」
「僕は、いつまでも歓迎するよ」
 シャルルは、小走りでロザリーナを追い越した。
 古い木造のアパートは、二人の足音を必要以上に響かせた。冷えきった空気が、二人の吐く息を白く濁らせた。
 部屋に入ると、シャルルは真っ先にストーブへ火をつけた。
「古いタイプね」
「でも、直ぐに暖かくなるし、気に入ってるんだ」
 言いながら、二人共コートを脱いだ。
「ロザリーナ、こっちへ」
 シャルルが、手招きする。そして、カーテンに手をかけた。
「見てごらん」
 シャルルの示す先には、二百年前と差ほど変わらない景色が広がっていた。
「あの屋敷は無くなってしまったけれど、この景色は残ってたんだ」
 白く彩られた冬の合間から、水平線が赤く燃えていた。
「この景色、何度も見たわ。何度も」
 そう呟き、ロザリーナは続けた。
「シャルル。私は、この二百年間、貴方を忘れようとした。温もりも、優しさも、孤独に呑まれそうだったあの痛みも。けれど、忘れる事など出来なかった。この気持ちが、サクリファイスの呪縛であると信じたかったの。それは、貴方を信じられなかったからよ。でも、貴方の本を見つけた」
 ロザリーナが、その場で泣き崩れた。
「もう一度、やり直せるかしら」
「そのために、僕は本を作ったんだ」
 シャルルだけではなかった。ロザリーナにとっても、幸せで掛け替えのない時間(とき)であったのだ。
「僕に、もう隠し事はないよ。今まで掛かって、ごめん。今度は、信じてくれるかい?」
 ロザリーナは、頷いた。
 二百年振りに、お互いがお互いを強く抱きしめた。

*****

 

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