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歴史・時代

ハヤブサ王 第4章 〜宿命(3)

   

 ヤタノヒメミコを大王の側室に。
 宿敵ヒレフノオオミの進言に、ソツビコは慌てだす。
 一方、イワノヒメも、女が大王にしな垂れかかっている場面を目撃してしまう。裏切られたような思いを抱いたイワノヒメは、ワケノミコと…。
 ワケノミコ、イワノヒメ、ヤタノヒメミコ、メトリノヒメミコ、彼らの人生の歯車が狂い始める!

 

 丸邇(ワニ)氏の族長ヒレフノオオミが、その話を持ってきたときに、葛城氏の族長ソツビコは何やら陰謀めいた、きな臭いものを感じた。
 その日、ヒレフノオオミは大王と対面し、ソツビコは大王の傍に仕えていた。
「ヤタノヒメミコを朕(チン)の妃にと?」
 大王は、ヒレフノオオミに問い質した。
 妃は、側室のことである。この時代、一夫多妻制は至極当然のことであった。
 因みに、小説や漫画では、皇族や豪族は一夫多妻制で、身分の低い者は一夫一婦制であり、皇女や豪族の娘が身分の低い娘のことを羨ましがるという情景が描かれるが、必ずしもそうではない。「魏志倭人伝」(『三国志』)では、倭国の男性は「大人でも四、五人、下戸でも二人、三人」の妻がいたと記している。「魏志倭人伝」はあくまで古代中国の歴史書なので、周辺国に対して幾分軽蔑を込めて書かれてあるが、倭国に対してはかなり友好的な表現を用いているので、妻の表記は恐らく事実であろう。また、奈良時代の戸籍でも、一般庶民の中にも妾という文字がでてくるので、それは当然のごとく行われていたようだ。ただ、庶民の場合は、皇族や豪族のように女性を政治の道具としたのではなく、貧しいゆえに寄り集まって生活していた、いわゆる共同体のようなものではなかったのだろうか。
 まあ、現代女性から見れば、あまり気持ちのいい話ではないだろうが。
 閑話休題。
 ヒレフノオオミが、ワケノミコの実妹であるヤタノヒメミコを側室に入れたいと言ってきたのだから、ソツビコとしては十分に警戒すべき話であった。
「大王におかれましては、后様がお一人、それでは何かとご不自由かと思いまして」
 ヒレフノオオミは、意味深な目でソツビコを見た。
 ヒレフノオオミの考えは分かっていた。ヤタノヒメミコを大王の妃に添えて、中央政界での権力を取り戻そうとしているのだ。だが、ソツビコは、どうもそれだけではないような気がしていた。ヒレフノオオミの後ろに、もっと大きな得体の知れない力が働いてるような感じを受けた。
 いずれにしても、ことは大王がこの話を受けるかどうかで決まる。全ては御心のままであった。
 ソツビコは、大王の横顔を見た。相変わらず何を考えているのか、ソツビコには分からなかった。
 大王は笑った。ケタケタと大きな声を上げて笑った。ソツビコは、大王が人前で大声を上げて笑うのを初めて見た。
 ヒレフノオオミは、大王の大笑に眉を顰めていた。
「うむ、不自由か、そうか、朕が不自由に見えますか、ヒレフノオオミ」
 大王の問い返しに、ヒレフノオオミは無礼な言葉だったと詫びた。
「確かに不自由です、大王という位は。できれば、投げ出したいほどです。ですが、女に不自由していません。朕の后は、イワノヒメ一人で十分です」
「これは、失礼いたしました」
「朕を思ってくれるその気持ちだけで十分です」
 ヤタノヒメミコを妃にという話はこれで終わった。
 しかしソツビコには、魚の小骨が咽喉に引っかかったような気持ち悪さが残った。

 

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