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SF・ファンタジー・ホラー

cat 〜その想い〜 7

   

 岱馳はついに初デートへ持ち込むのだが…、岱馳にとって、いくつかの障壁と決断のときがこの日にはあるのだ。
 映画、食事、とありふれたデートだ。だが、岱馳は職場以外で杏那と会うことは初めてのこと。気持ちがちがうせいで、やや臆病になっていた。
 岱馳のしくじりが目立つ結果となる。

 杏那にもそんな岱馳の態度が伝わっていたようだ。そのせいで口数がいつもより少ない。
 だが、かならず転機はくる。それが岱馳の持論でもあった。
 身から出た錆、岱馳はめずらしくドジを踏み、体たらくな面をみせてしまう。しかし、杏那の優しさと、周囲の手助けによって空気が変わる。思い込みからメンタル面が低下していた岱馳。それを払拭できたのだ。

 ふたりに笑顔が戻った。岱馳も軽快に話をはじめる。そして、このままあることを実行へと移行する。
 きょうの目的はこれだった。

”告白”。

 岱馳の不器用な告白劇が幕を開ける。

 

「梶原、休みを調整してほしい」
 杏那と二人でデートをするために休みをあわせようとシフトの調整を申請した。リーダーの梶原に相談した。出勤のシフト係りは彼の役目だった。
「平日の水曜を休みにするならほかの社員や派遣スタッフに差し支えることがない。どうする?」と変更可能の返答があった。
 杏那は水曜固定休とほかシフト休みの雇用契約を交わしている。岱馳があわせるしかなかった。社員という立場で強行しても文句はでない。特権である。
 ひと月前からの計画だ。ぬかることのないようにしなければと、慎重に初デート当日まで気を緩めることはできなかった。
 映画をみるまえにどっかで待ちあわせるか、終わったあとは食事をする。杏那はなんでも食べるようなことをいっていたから特に困りはしない。イタリアンならきっとよろこぶかもしれない。
 まるで桜色のような真新しい新学期を待ち遠しくしている子どものようなドキドキ感が胸に広がっていた。
「不備がないようしくじることはできない。男としての完ぺきなエスコートを実行する」
 とんでもない意気込みで最高の一日を思い描いていた。時間が経つごとに緊張感が高まり、異常なほどにデート当日の理想が想像通りに行われるかとさいなむ。束縛感のような高まりが異様な快感を与えもしていた。

 初デート当日。天気もよく風がのんびり気持ちよさそうにふいている。穏やかでありふれた日常をおくれそうだ。
 池袋の東口、宝くじ売り場前で十二時に待ちあわせをした。15分前に到着して一応まだきていないとはいえ杏那を探した。どこにいても杏那なら視界にとらえることだろう。とりあえず携帯電話が震えるのを待った。一度の振動で感知できるよう握りしめていた。時間とは逆算すればあとどのくらいで目的地に着くかは推測できよう。杏那はその計算力がないわけではない。緻密なスケジュールをこなすことができる配慮がある。10分くらい前になれば携帯電話でメールくらい状況を教えてくれれば不安はない。杏那からの連絡は5分前になってもない。十二時に近づくたびに胸の動機が弾んでいく。呼吸も乱れ困難な病にかかったようにつらくなりはじめていた。これが恋の病なのだろう。
 正面から杏那らしき女の子が姿を見せた。目があった。こちらにむかって歩いている。除々にその表情がはっきりとした。微笑みがあり照れくさそうにしている杏那の顔はかわいいのひと言に尽きる。
「おはよう」あいさつすると彼女もおなじように返してくれた。
 いつものように会社での会話とはまた勝手がちがいぎこちなく、それでいてよそよそしい空気が二人を包み込んでいた。
“これからどうする?”岱馳のしくじりだった。
「どこでもいいですよ」と緊張している杏那の顔は強張った表情がみてとれた。
 岱馳は内心、冷や冷やしている。さんざんメールで決めたことがほとんどうまく運ばない。最初の微笑みの挨拶がいまではうそのように曇りはじめた。杏那が視線をそらす歯がゆい態度に困惑した。
 映画の開始時間がきょうに限って変更されていた。
 一時間ばかり待つ結果になった。すぐに映画がみられないことのショックがおもいのほかダメージがでかく言葉を失った。
 最初の切りだしが悪かった。準備万端だったはずの計略に不備がでてしまったことのいらだち。なにか間違ったことをしてしまったのかとあやまりたい。だがそんなことをしていいのかわからない。あやまることですべてを解消することにはつながらない。それすらわからない。どんどん深みへはまっていく。二人での時間を費やすということが、また二人を窮屈なものへと変えたのかもしれない。
 杏那はおもいのほか言葉数が少ない。

 

-SF・ファンタジー・ホラー


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